ロシアのウクライナ侵攻下での両会
本問題は2014年のロシアによるクリミア併合時に比べ、その規模、国際社会への影響ははるかに深刻で、国際社会の対ロ非難、欧米の制裁も当時より格段に厳しいが、「ウクライナを支持すると同時にロシアにも配慮する」という中国の微妙な立場は、以下のような点から2014年と基本的には変わらない(連載『ウクライナ情勢と中国』参照)。
①ウクライナ(以下、ウ)を主権国家と認め、かつ「一帯一路(BRI)」の原メンバーで重要パートナーと位置付け、密接な経済関係を持つ。ウにとって中国は最大の貿易相手国で、特に最大の武器輸出先。中国にとってはロシア、仏に続き3番目の武器輸入先だが(ストックホルム国際平和研究所によると、中国の武器輸入シェアは2016〜20年、ロシア77%、仏9.7%、ウ6.3%)、ウは中国がロシアや旧ソ連から輸入した大量の武器の維持補修に必要な部品を供給。BRI全体への影響については別途詳細な分析が必要だが、当面、ロシア、ベラルーシ、そしておそらくウを経由するルートを回避し、伝統的海上ルート、中央アジアや西アジア、カスピ海沿岸のイラン、トルコを経由する陸上ルートに重心を移すことが予想される。
②2013年にウと締結した友好協力条約で、ウが脅威に晒され、またはその恐れが生じた場合、ウに安全保障を供与することを約束している。
③中国が一貫して主張する「国家主権・領土不可侵」「内政不干渉」の外交原則と、本件に関わる外交姿勢の関係をどう説明するかという難題がある。
④国内的にウイグル分離独立運動を抱えており、ロシアが一方的に宣言したウ東部2州独立といったことは、中国としては正式には認め難い。
微妙な立場を反映して、報告で本問題への直接的言及はなく、全人代後の李氏の記者会見でも、「制裁は誰にとっても不利益」「各国の合理的な安全保障上の懸念(関切)は重視されるべき」とロシアに配慮する一方、停戦に向けて中国も積極的役割を果たしていくとした。
中国当局はなお「侵略」「侵攻」(中国語では通常「入侵」)とは言わず、李氏も記者会見で慎重に「ウ情勢」という用語のみ使用。中国内メディアは「ウ危機」「ロシアの軍事行動」「ロシアとウの衝突」といった用語も使用しつつ事態の展開を報道。3月の習・バイデン中米トップオンライン会談後も、少なくとも表面的には変化はない。
ただ、中国内でも様々な議論がある。ウ侵攻直前にプーチン大統領が訪中した際、習氏は「中ロ協力に上限なし」と発言。これが現状でもロシアに配慮する姿勢に繋がっているが、党中央内で「後に発生し得るまずい結果(後果)を考えない愚かな発言だった」との声があるという※2。
※2 3月26日付海外華字誌万維読者網中国瞭望
駐米中国大使は3月、「中ロ協力に上限はないが、国際ルールというボトムライン(底線)がある」と婉曲的に習発言を修正。協力に上限がないのであれば、現状、中国は軍事的、経済的、外交的にロシアを最大限支援する必要があるが、国際ルールという底線があるとすれば、「入侵」として対ロ非難をしなければならず、中国が気まずい(尴尬(ガンガー))立場にあるということになる。中国内の一般世論でも、親ロ、反ロの間で激しい論争があるという※3。
※3 3月25日付多維新聞。親ロ、反ロ、双方の議論を紹介しているが、同誌としての立場は明確にしていない。なお、同新聞は23年間続いていた海外を拠点とする華字誌だが、4月26日に発刊停止を発表した。
習政権は「戦狼外交」と呼ばれる好戦的対外政策で欧米との対立を深める中、2014年時に比べ対ロ関係により配慮する一方(図表)、欧米の対ロ制裁に同調せず、対ロ非難も控える中国にも国際社会の非難が向かってこないか不安を募らせている。明確な外交姿勢を示す必要に迫られる前に、どういう形であれ、事態が早く収束してほしいというのが本音ではないか。事態がさらに悪化・長期化した場合、ロシア、ウ双方に友好関係を持つ国として、積極的に事態収拾に乗り出し、国際社会に存在感を示す選択肢も考えるかもしれない。
中国当局は経済への影響も懸念している。エネルギー国際価格上昇による輸入インフレが懸念され始めた他(全人代終了時、報告に92ヵ所の細かい修正があったが、輸入インフレのリスクが追加されたことが最も重要な修正とされている)、おそらく外国人投資家が中国に対しロシアと同様の地政学的リスクを懸念して、2月以降、新興国市場の中では中国市場だけがかつてない規模で外国資金の引き上げに見舞われている。
国際金融協会(IIF)などによると、外国人投資家は2月、3月、中国債を各々128億ドル、150億ドル強の売却超で過去最高を更新。過去数年は月平均125億ドルの流入超だった。3月は香港交易所を通じて上海・深圳交易所の株を売買する沪港通(「沪(フー)」は上海の略称)や深港通と呼ばれるコネクト・スキームを通じ、ネット106億ドルの中国株売却。1ヵ月としては過去最高を記録した。感染再拡大も相まって、3月末にかけ株価が大幅に下落。3月末の外貨準備高は、ドル上昇でドル以外の通貨で保有する外貨準備のドル額が減少したことを主因として31880億ドル、前月末比0.8%減となったが、資金流出要因も大きい。4月も資金流出とドル上昇が続き、4月末外貨準備高は31197億ドルとさらに減少している。
国際社会の緊張が高まる中で、例年以上に注目された国防予算は1.45兆元(約27兆円)、前年比7.1%増。2019年7.5%以来の高い伸び。近年GDP目標より高い伸びに設定されており、国防が優先的な予算になっていることがうかがわれる。周知の通り、以前から国防予算公表数値は透明性が低く、実態は1.4倍(ストックホルム国際平和研究所)、2012年以降、習政権下で4倍に膨張した(台湾の軍事専門家)などの推計がある。内訳は軍事要員生活費、維持補修、養成、訓練、兵器装備投資(先端兵器への代替など)で、前2項目が3割、兵器装備投資が4割を占めるという。
予算は各地方に分散しており、また大学などの国防関係研究は科技経費に含まれている。全人代での報告は国防・軍隊の現代化を目指す「2027年建軍100年奮闘目標」(2020年10月5中全会で提起)に言及したうえで、2022年に実現すべき目標として、現代軍事物流・資産管理体系の建設加速、武器装備現代化管理体系構築を掲げている。
次回最終回は、20大に向けての政治的焦点を展望する。
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