※画像はイメージです/PIXTA

「父が亡くなってしばらくしてから愛人を名乗る女性が現れた!」というケースは、現実にも起こっています。そうなると相続の現場は大混乱です。そんな不測の事態で、どのように対処すればいいのか解説していきます。なおこの記事では、一方あるいは双方に戸籍上の配偶者がいて、互いに婚姻の意思がない交際関係にある人を「愛人」と呼ぶことにします。

愛人に渡った遺産は取り戻せる!

1.遺留分減殺請求

 

遺言や死因贈与契約で愛人に遺産が渡ってしまっても、戸籍上の配偶者や子など本来の相続人は遺産を取り戻すことができます。

 

愛人から遺産を取り戻す方法の一つめは「遺留分減殺請求」です。本来の相続人に保障された取り分である遺留分を主張して、遺留分に満たない分を愛人から取り戻す手続きです(2019年7月1日から制度が改正され、「遺留分侵害額の請求」に変わります)。

 

遺留分の割合は基本的には法定相続分の2分の1です。妻子がおらず両親が相続する場合は3分の1となります。たとえば、相続人が妻と子1人の場合は、妻と子の遺留分の割合はそれぞれ4分の1ずつとなります。

 

遺留分減殺請求で愛人から遺産を取り戻すためには、内容証明郵便で愛人に対して意思表示をします。ただし、愛人が素直に応じることは少なく、家庭裁判所での調停に持ち込むケースも少なくありません。スムーズに解決したいのであれば弁護士に相談することをおすすめします。

 

2.遺言の無効を訴える

 

愛人から遺産を取り戻す方法の二つめは、遺言の無効を裁判所に訴えることです。愛人に遺産を継がせるという内容の遺言を無効にすれば、遺産を取り戻すことができます。

 

具体的には、次のいずれかあるいは両方のポイントで遺言の無効を訴えます。

 

・公序良俗に反するとして無効を訴える
・形式の不備による無効を訴える

 

自分だけで遺言の無効を裁判所に訴えることは難しいため、弁護士に相談して対策を考えることをおすすめします。

 

■公序良俗に反するとして無効を訴える

 

遺言で愛人に遺産を渡す行為は、それが交際を維持する目的であって妻子の生活が脅かされるのであれば、公序良俗に反するとして無効になります。

 

一方で、愛人の生活を保障する目的で妻子の生活を脅かすほどでない場合は有効となることもあります。

 

■形式の不備による無効を訴える

 

遺言は民法で形式が細かく定められていて、形式に合わない遺言は無効になります。たとえば押印がない、日付があいまい、筆跡が違うといったことが形式の不備にあたります。

 

もし遺言に形式の不備があれば、裁判所に訴えて遺言を無効にできる可能性があります。

 

<遺言で保険金の受取人が変更されることも!>

遺言で気をつけなければならないのは、遺産の配分だけではありません。遺言では、故人が加入していた生命保険の保険金受取人を変更して愛人にお金を渡すこともできます。

 

保険会社では保険金受取人を被保険者の2親等以内の血族に限定していることが多く、第三者である愛人を受取人にすることは極めて難しいのが実情です。そこで契約を容易にするため、加入時は2親等以内の血族を受取人にして、遺言で受取人を愛人に変更することがあります。

 

このような方法で愛人に保険金が渡された場合でも、遺言が無効になれば保険金を取り戻すことができます。

 

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本連載は、税理士法人チェスターが運営する「税理士が教える相続税の知識」内の記事を転載・再編集したものです。

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