●ウクライナ情勢の緊迫が続くなか、日米欧の主要株価指数は、直近安値から大幅に反発している。
●背景には、難航中だが継続している停戦協議への期待や原油高一服によるインフレ懸念の後退。
●株式市場は脱ロシアの世界経済の織り込みを開始、株高基調を強めるには停戦への動きがカギ。
ウクライナ情勢の緊迫が続くなか、日米欧の主要株価指数は、直近安値から大幅に反発している
ロシアのウクライナ侵攻が続くなか、主要国の株価指数は軟調な推移が続いていましたが、このところ反転上昇の動きがみられます。直近安値からの上昇率(終値ベース)を確認すると、ダウ工業株30種平均とS&P500種株価指数は5%超、ナスダック総合株価指数は8%超となっています(図表1)。また、日経平均株価は7%超、東証株価指数(TOPIX)は、ほぼ8%に達しています。
さらに、欧州株に目を向けると、反発の動きはより顕著で、ドイツ株価指数(DAX)とフランスCAC40は2ケタの上昇、イタリアFTSE・MIBは9%近い上昇となっています。ただ、ウクライナの首都キエフを巡る攻防が一段と激しくなっている模様で、ウクライナ情勢は依然として緊迫したままです。そこで以下、ここにきて主要株価指数が上昇に転じた背景について考えてみます。
背景には、難航中だが継続している停戦協議への期待や原油高一服によるインフレ懸念の後退
まず、1つは、ウクライナとロシアの停戦に向けた協議は難航しているものの、話し合い自体は継続しているという点です。つまり、将来の停戦合意に向けた期待が、一定程度、相場を支えていると推測されます。なお、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は3月16日、両国の代表団が合意案の作成をめぐり重要な進展を遂げたと伝えました。早期の合意はまだ難しいと思われますが、協議の継続は相場にとって重要な材料です。
もう1つは、原油価格の急騰が一服し(図表2)、過度なインフレ懸念が後退したことです。今のところ、ロシアからの原油輸入を禁止すると発表したのは米国と英国にとどまっており、ロシアは原油の輸出を続けています。また、米国が原油生産を増やす見通しとなり、経済制裁でロシアからの原油供給が急減し、需給が大きくひっ迫するとの不安が和らいだとみられます。
株式市場は脱ロシアの世界経済の織り込みを開始、株高基調を強めるには停戦への動きがカギ
また、3月7日付レポートで解説した通り、株式市場はロシアに依存しない世界経済を早々に織り込み始め、株価の反転につながった可能性が高いと思われます。実際、多くの企業がロシアからの撤退や、事業停止・縮小を決定しており、ロシア産化石燃料に依存する欧州では、3月10日、11日に開催した欧州連合(EU)首脳会議で、2027年までの依存脱却を目指し、今年5月までに具体策を提案すると発表しました。
主要株価指数は足元でいったん反発し、落ち着きを取り戻しつつあるように見受けられますが、ウクライナ情勢を巡る不透明感はまだ払拭されていません。また、WTI原油先物価格は、昨日、終値ベースで100ドルを回復しており、高止まりが続くことも予想されます。株価がもう一段、上昇基調を強めるためには、やはりウクライナとロシア双方が協議を継続し、少しでも停戦に近づくことが待たれます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『ロシアのウクライナ侵攻が続くなか「株価が反発した」背景【ストラテジストが解説】』を参照)。
(2022年3月18日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト