●化石燃料への投資が低迷するなかコロナ後の需要急増とロシアへの経済制裁で原油価格が急騰。
●化石燃料への投資再開はハードルが高く、米利上げだけで世界の原油需要を抑制するのは困難。
●ロシア産原油の供給は完全停止せず、イラン核合意再建なら需給改善で原油高抑制の要因に。
化石燃料への投資が低迷するなかコロナ後の需要急増とロシアへの経済制裁で原油価格が急騰
WTI原油先物価格は3月2日、一時1バレル=116ドル57セントをつけ、2008年9月以来、約13年半ぶりの高水準に達しました。しかしながら、その後、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長が5日にイランを訪問するとの報道が伝わると、「イラン核合意の再建→イラン産原油の輸出再開→原油需給の緩和」という思惑から、売り優勢の展開となり、WTI原油先物価格は同日、107ドル67セントまで値を下げて取引を終えました。
最近の原油高は、3つの要素が重なったことによるものと考えています。すなわち、①世界的に脱炭素化の流れが加速するなか、近年、化石燃料への投資が低迷していたこと、②2020年春先のコロナショックを経て、主要国の景気が持ち直し、原油需要が急増したこと、③ウクライナに侵攻したロシアに対する経済制裁により、ロシア産原油の供給不安が高まったこと、の3点です。
化石燃料への投資再開はハードルが高く、米利上げだけで世界の原油需要を抑制するのは困難
原油高の進行を止めるには、原油の供給を増やすか、需要を減らすかが必要です。例えば、前述の①についていえば、化石燃料への投資を再開する、ということになります。ただ、これは脱炭素化の流れに逆行することであり、また、原油採取には莫大な投資資金を要する上、新規の開発は生産まで5年以上かかることもあるため、仮に投資を再開しても、すぐに供給を増やすことは困難です。
次に、②についていえば、利上げなどによる景気の過熱抑制を通じ、過度な原油需要を減退させる、ということになります。なお、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は3月2日、米議会下院において、今月の利上げが適切との考えを表明しており、米国では金融政策の正常化が一段と進む見通しです。ただ、米国の政策だけで、世界の原油需要が直ちに減退することは考えにくいと思われます。
ロシア産原油の供給は完全停止せず、イラン核合意再建なら需給改善で原油高抑制の要因に
そして、③については、経済制裁を緩和し、ロシア産原油の供給不安を払拭する、ということになりますが、ロシアのウクライナへの攻撃が続くなか、現状では実現困難です。ただ、欧州連合(EU)が国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除したロシアの銀行7行に、最大手のズベルバンクとエネルギー貿易の決済を担うガスプロムバンクは含まれておらず、ロシア産原油の供給が完全に途絶えることはないとみられます。
なお、WTI原油先物価格は、2008年7月に史上最高値をつけた後、世界的な金融危機の発生で原油需要が急減し、下落に転じました(図表1)。
今回、世界景気の先行きに不透明感は強まっていますが、過剰流動性を抱える金融機関に危機発生のリスクは小さいとみています。目先の注目材料はイラン核合意再建の成否で、日量100万バレル強の生産余力があるとみられるイランの原油輸出再開は(図表2)、原油高抑制に作用すると考えます。
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『上昇が続く「原油価格の行方」について』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト