今回は、パナマ文書流出に潜む「本当に深刻な問題」について説明します。※本連載は、作家・経済評論家として活躍する渡邉哲也氏の最新刊『パナマ文書 「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う』(徳間書店)の中から一部を抜粋し、タックスヘイブンを利用した脱税のしくみ、規制に動く各国税務当局の対応の一端をご紹介します。

タックスヘイブンに存在する会社の多くは合理的なSPC

これまでの連載で、タックスヘイブンに集められた不透明な資金について説明してきたが、だからといって、このようなオフショアやタックスヘイブンにつくられた法人がすべて違法なものというわけではない。

 

金額の大半を占めるのは、合法かつ合理的な理由による特別目的事業体(SPV)で、法人格をもつものを特別目的会社(SPC)と呼ぶ。

 

ファンドなどを通じて投資する場合、証券会社などが資産を集めそれを運用しているわけであるが、これを別法人の別口座にしておかないと、証券会社が倒産した場合などに損失が及ぶ可能性がある。また、完全な別勘定にすることでその透明性も保てるのである。

 

じつは、タックスヘイブンに存在する企業の多くが、このような目的のためにつくられた特別目的会社なのである。

 

これをタックスヘイブンの国以外の国でつくった場合、ファンド会社が生み出した利益が課税対象になり、ファンド側で一度課税され、ファンドの分配金でさらに課税されることになり、二重課税になってしまうと同時に、税と手数料が倍増し、ほとんどのファンドが成立しなくなると思われる。

 

このような受け皿となる企業を「投資ビークル」(SIV=Structure Investment Vehicle)などと呼ぶ。これはファンドだけではなく、証券化や債券化を行う際などの仕組みにも利用されているわけである。

 

たとえば、不動産の証券化を行う場合、特別目的会社が不動産の所有者になり、それを分割し、証券に換えて売却、証券を買った人はその持ち分に合わせた配当を受け取るわけである。

 

そして、ほとんどの物やサービスが証券化される現代において、これは必要な仕組みであり、なければ今の社会は維持できないのもひとつの事実であるのだと思う。

 

以下は専門的すぎるので読み飛ばしていただいても結構だが、一応解説すると、証券化されているものの実例をあげると、売掛金、受取手形、債券(社債)、貸付金(住宅ローン、自動車ローン、クレジットカードローン)、リース債権といった企業などがもつ資産を担保にした資産担保証券(ABS)、不動産ローンを担保にしたモーゲージ担保証券(MBS)などがある。

 

そして、こうした複数の資産担保証券を組み合わせた債券をCDO(債務担保証券)と呼び、その担保がローンのみで構成される場合は「CLO(Collateralized Loan Obligation)」、債券または債券に類似する商品で構成される場合は「CBO(Collateralized Bond Obligation)」と呼ばれ、CDOはそのいずれか、またはその双方を包含する商品を指す。

 

さらに、その債券を輪切りにして、複雑に組み合わせた債券にシンセティック(合成)CDOというものがあり、これが債券ファンドなどのなかに組み込まれることで、多重構造での信用創造が起きているわけである。

 

また、これを組成するのにかかわっているのが格付け会社であり、よい格付けが出るようにアドバイスすることが彼らの大きな収入源になっている。そして、この過程で多重の信用創造が発生し、レバレッジもかかるため、世界の金融市場は実態資金の60倍程度まで膨れ上がっているといわれているのである。

 

と専門的に書いたが、簡単にいえば、世の中にあるありとあらゆる借金が債券に代わり、他者に転売され、それが小分けにされて組み立てられて新しい債券に生まれ代わり、それが世界中の銀行に売られていたり、ファンドなどのかたちで個人にまで販売されているということである。

 

そして、この過程で信用取引などのかたちで水増しされ、最初の借金の60倍程度の金額に膨れ上がっているわけである。

不透明な資金が世界経済を支えている!?

また、リスク分散の名のもとで行われた債権の分離や切り分けが原資産(元になる資産)と債権の裏付け(担保のようなもの)の乖離を進めさせてしまい、それがリーマンショックの原因になったともいわれている。

 

資産担保債券でデフォルト(債務不履行)が起きた場合、裏付け資産(担保)を処分することで返済を受けられるはずなのであるが、切り分けられ分割されてしまっているので、処分する資産がわからなくなっていたわけである。

 

そして、債券が複数の債券に分割されているため、被害がほかの債券にも及ぶ結果になってしまったのだ。

 

これをわかりやすくたとえるとすれば、全国の産地から大量のりんごを集めて箱詰めし、出荷した。それを流通業者がさらにサイズ別などに小分けしてビニールに入れ販売していた。しかし、そのなかの特定産地の一部から味のおかしいものが見つかった。

 

本来であれば、その産地のものだけを取り除けばよいのであるが、交ざり合っているためにすべての価値が落ちてしまったのである。結果的に、リスク分散のつもりがリスク拡散になってしまったのだ。

 

本来、このような不透明な仕組みや債券化はやめればいいのであるが、債券化の過程で実態資金の60倍以上の資金が生み出され、それが世界の市場を支えていることも事実であるため、簡単にやめるわけにもいかないのである。

 

そして、今回のパナマ文書流出にも同様のことがいえるのだ。たとえ不正な資金であっても、それが資金として世界の市場を支えている実態がある以上、その原資が失われることになれば、その額の数十倍の資金量が消失する可能性がある。

 

本当に深刻なのは、オフショアに流入していた3000兆円ともいわれる資金ではなく、そこから派生し膨れ上がった額がどの程度になっているのかがわからないということなのである。

パナマ文書:「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う

パナマ文書:「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う

渡邉 哲也

徳間書店

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