数々の税金から逃れてきたグローバル企業だが・・・
前回説明したような新たなコーポレート・インバージョン(外国に親会社を設立すること)は、近年、規制が厳しくなったことで成功しないケースが増えている。だが、過去において、そのようなかたちでつくられた企業が多数あるのが現状なのだ。
たとえば、世界最大のネット書店であるアマゾンなどがそれあたる。よくいわれることだが、日本国内でアマゾンで買い物をしても海外購入扱いになり、アマゾンの日本法人アマゾンジャパンは日本で法人税を支払ってこなかった。
これはアマゾンのクレジット決済センターがアイルランドのダブリンにあり、アマゾンジャパンは補助業務を行っているだけの存在だと主張していたからだ。これを「PE(恒久的施設)がない会社」というが、こうした企業は日本の法人税の納税義務はないということで、法人税を逃れてきた。
また、消費税についても配送先が日本国内である場合には課税対象となっていたが、電子書籍などの電子データ販売については、そのサーバーがアメリカのシアトルにあるということで消費税の課税対象となってこなかった。これに対して、同じく電子書籍を扱っている日本の書店からは不公平だという声が高まっていた。
これに関しては2015年10月、国税当局はインターネット上のデータ取引であっても、日本で営業活動を行っている企業団体に関しては、的確に徴税していくと表明し、課税対象となった。
加えて、2016年4月11日、注目すべきニュースが報じられた。アマゾンのサイトには、購入者が商品評価(レビュー)を書き込めるようになっているが、この内容をめぐって東京都内のNPO法人がアマゾンのアメリカ法人と日本法人を相手に投稿者の情報開示などを求める名誉毀損訴訟を東京地裁に起こしていた。
これに対してアマゾン側は、日本語サイトの運営主体は日本法人アマゾンジャパンだと認めて敗訴し、控訴しなかったために判決が確定したのだ。
これはアマゾンが自ら日本に法人実体があることを認めたということを意味する。ということは、にもかかわらず、法人税をこれまで払ってこなかったということになるのだ。これによりアマゾンの日本法人は、無申告重加算税(無申告加算税に代えて課される重加算税)を追徴される可能性が出てきた。
基本的に無申告によって法人税を逃れていた場合、通常ならば過去5年、非常に悪質とされた場合は過去7年に遡って重加算税および重加算税滞納による法定金利がかかるという仕組みになっており、膨大な金額が徴収される可能性が指摘され始めている。
このように、これまで法の目をかいくぐって逃れていた租税に関して、各国で課税する動きが加速しており、これが近年、アップルやマイクロソフト、スターバックスといったグローバル企業の業績悪化や株価下落の原因になっているのである。
「暴露」で税務当局は脱法行為を指摘しやすくなった!?
税の問題を考える場合、非常に重要な原則を理解しなくてはいけない。それは「租税法律主義」というものである。
国家が課税を行う場合、それは法律に則って行わなければならず、法によらない課税は許されないという原理原則である。
日本では日本国憲法第84条【課税の要件】に、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定されており、同時に日本国憲法第30条【納税の義務】には、「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」と義務も課しているわけだ。
そのうえで、「反実質主義」でなくてはならないとされ、実質脱税行為であったとしても、法に反することを立証できないかぎり、課税や処罰できないとされているわけである。「疑わしきは納税者の利益に」ということなのだ。
そして、この原理原則が、法律の穴を利用した租税回避を許す原因にもなっているわけだ。基本的に法治国家では、新たに法律をつくってそれを過去に遡って適用する「遡及法」は許されていない。税務当局と税金を払いたくない人たちの間でイタチごっこが繰り広げられることになる。
しかし、税務当局は現状すでにある法律の解釈が企業と行政の間で異なっていたということで、これまで取ってこなかったものを取ろうとする。したがって、租税回避が違法か合法かということは、法解釈や税務当局の判断による部分もあるわけだ。
だから税務当局が過去の申告漏れを指摘した際、企業側は「解釈の違い」といった釈明をするわけだ。そのため、これまでの租税回避行為についても、法解釈のあり方次第で脱法行為として認められ、過去に遡って課税される可能性は往々にしてある。
パナマ文書によって、詳細な取引実態が明らかになることで、税務当局側はより明確に脱法行為を指摘しやすくなったともいえるだろう。