今回は、タックスヘイブンである英領バージンに集まる、不透明な資金の実態について見ていきます。※本連載は、作家・経済評論家として活躍する渡邉哲也氏の最新刊『パナマ文書 「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う』(徳間書店)の中から一部を抜粋し、タックスヘイブンを利用した脱税のしくみ、規制に動く各国税務当局の対応の一端をご紹介します。

「匿名」での法人設立が認められている英領バージン

タックスヘイブンを利用した租税回避行動も問題だが、それ以上に深刻なのは、英領バージンなどを利用した匿名取引である。

 

非常に初歩的なことではあるが、あえて説明すると、法律行為(契約や売買など)を行うことができるのは「法人格」をもつもののみとされている。何か物事を行うには権利と義務が生じる。

 

擬似人格として法律でつくりあげたものが法による人、つまり「法人」ということになるわけだ。万が一、人が問題を起こせば、処罰したり責任を取らせたりすることができるわけであるが、実態のない法人ではこれが困難である。

 

このため、法律で法人のなかでの責任を明確に規定するかわりに人と同様の人格を与えているわけである。

 

基本的に法人は、このような理論構造になっているために、匿名での設立や出資を認めている国は限りなく少ない。当然の話であるが、国家がこんなものを認めたら詐欺や犯罪の温床になってしまうからである。

 

しかし、英領バージンではそれが可能なのである。英領バージンでは代理人などを利用した届け出と登記だけで法人設立が可能であり、国内で事業を行わないかぎり、法人税はかからず申告すら不要である。

 

また、イギリス領ではあるが、通貨はポンドではなくドルであり、ドル資金の持ち込みに際して両替も不要になっているのだ。このため、世界の4割以上のオフショア法人が英領バージンに存在するのである。

 

人口が2万2000人程度しかいないカリブ海の自治国である英領バージンの国家財政の半分以上は、法人の登録税で賄われており、これが最大の収入源なのだ。

匿名ゆえに「不正売買」の温床となっている可能性も

このため、身元を知られたくない資金がいったんこの島に集まり、この島から直接、または別のオフショア地域を介するかたちで世界中に流れているわけである。ある意味、インターネットの匿名プロキシのようなものである。

 

そして、この法人設立を手伝い、運用管理を代行していたのがモサック・フォンセカであり、真の所有者からの指示と関係を示す資料がパナマ文書なのである。

 

また、これに関連する金融の闇として、「ダークプール」というものがある。これは私設の株式市場であり、一般的な株式市場とは関係なく場外で行う取引のことをいう。銀行や証券会社などが仲介し外から見えないかたちで取引を成立させているわけである。

 

これを利用し、不正な売買が行われているという指摘も強い。

パナマ文書:「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う

パナマ文書:「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う

渡邉 哲也

徳間書店

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