わが子に「脅し」や「威嚇」を使い続けると…
子どもが勉強をしない時や成績が芳しくない時に思わず「黙って勉強しろ」「勉強しないなら大学に行かなくてもよい」「成績が上がらないなら塾をやめろ」「大学受験に失敗したら働け」などを言った経験はないでしょうか。恥ずかしい話、教えることを本業としている私はこれらの言葉を使ったことが何度もあります。
子どもの力がまだ弱い時は、確かに即効性はあるように思われます。しかしながら、子どもが成熟してくると親と子の力関係は変化していきます。この力関係の変化に気づかずに「威嚇」や「脅し」の言葉はかえって子どもとの心理的距離は広がります。個別指導をするようになって以来「親は分かってくれない」と言う子どもたちがなんと多いのかと驚くほどです。自分自身、身につまされる思いを感じています。
「威嚇」「脅し」に子どもは耐性をつけていきます。「威嚇」「脅し」は効果の持続性がなくなると、さらにエスカレートしていくものです。ここまでくると「威嚇」「脅し」の目的は、子どものためではなく、親自身のストレスの発散へとその目的を変えていきます。ややもすれば、言葉ではなく実力行使へと繋がります。
会社で「威嚇」「脅し」を用いればパワハラであり、夫婦間で用いればモラハラになります。思春期を迎えて成長していく子どももやがて「言い返す言葉」「言い返す力」を手に入れます。「口を閉ざす」「心を閉ざす」ことで自分を守る子どもたちもいます。脅しが効くのは今だけです。親が見ていないところでは、子どもの行動が変わっていないことがほとんどです。
「良好な親子関係」は成績向上の基礎
私が成績を上げる際に最も意識しているのは、この親子関係です。子どもから「親は分かってくれない」という言葉を聞いた時は指導をいったん止めて、子どもの話に耳を傾けるように努めています。もちろん、解決する力は私にはありません。しかしながら子どもの話を聞いてあげることで、子どもは精神的に楽になるものです。味方がいない中でもがいている子どもの味方になることなら、私にもできるからです。親の気持ちを代弁したり、子どものストレスにアドバイスをして学習の障害を取り除くことで、子どもの成績は少しずつ上がり始めます。
「威嚇」「脅し」ではなく、言葉で伝える私が生徒を指導する場合には、以下のように使い分けています。道徳的、倫理的な問題の場合は、強い言葉で1回しっかりと叱ります。もちろん説明も加えます。それに対して、上手くいかない場合や単なる失敗で、本人に改善の意思がある場合は、「見ているよ」というサインを送ります。自覚のない間違いや改善の仕方が分かっていない場合は、具体的にアドバイスをしています。
●ちょっとしたミスは本人の自覚がある限り見守る
●自覚のない間違いや改善の方法が分からない時は具体的アドバイス
①「私たち」「一緒に」という言葉を用いる
できる限り「私たち」「一緒に」という言葉を使う。問題を共有していること。ともに解決しようとしているメッセージを送ることです。「勉強しなさい」を「一緒に勉強しよう」「一緒になって時間の使い方を考えよう」「あなたは…」ではなく「私たち」の言葉のほうが人は動きます。
②子どもに正論を求めない
勉強が上手くいかない時、悩んでいる時には、子どもに正論を求めるのもかえって逆効果です。知識や知恵、または反論の技術を持たない子どもを正論で納得させようとしても、たいていは上手くいきません。大人にとっての「正しさ」が必ず子どもにとっての正しさであるとは限らないからです。子どもには子どもの理由があります。それを無視して正論を振りかざせば、理屈で返せないがゆえに自分の言葉を消していきます。子どもが成長してくると、「親とは…であるべきだ」「大人は…すべし」など、同じだけ正論を親に求めてきます。
③手本を見せる
言葉と行動が一致しない時は、人間は行動のほうを信じると言われています。子どもに「早起きして勉強したほうがいい」と言っている親が、仕事の忙しさを理由に朝遅く起きてくれば、子どもには「早起きの効果」は伝わりません。親が仕事で疲れていることは、子どもには見えません。また、仕事の苦労など知る由もありません。ただし、常に言動一致させることは不可能です。また一致していないからこそ、人間的でもあります。親も子どもも人間です。言動一致が難しいことも共有することで「お互いさま」と許し合えたりもします。
●手本は、言葉よりも強い
●「やってみて、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ」(山本五十六)
乾 俊和
株式会社ドゥクエスト 代表取締役社長
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