日本の年金制度は、賦課方式に加え、一部が積み立てられ次年度以降の年金支給に充てられる方式をとっている。そして現在は、これまでに積み立てられてきた保険料を取り崩している段階だ。今後積立金がゼロになれば、政府はどのような手段をとるのだろうか。前日銀副総裁・岩田規久男氏が解説していく。 ※本連載は、書籍『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。
厚生年金の積立金「31年度には枯渇」…「年金が減るのか」「保険料・消費税が増えるのか」 ※写真はイメージです/PIXTA

今後…「年金が減るか」「保険料・消費税が増えるか」

それでは、積立金がゼロになるとどうなるか。次の手段がとられると考えられる。

 

①過去債務を減らす。つまり、現在の年金受給者に支払う年金額を、今後、マクロ経済スライド制による調整率を大きくして、約束した年金額よりも減らす。

 

②将来の保険料収入を増やす。つまり、年金保険料率を2017年度の18.3%に固定するという約束を破り、引き上げる。

 

③将来債務を減らす。つまり、まだ年金受給年齢に達していない将来世代に約束した年金給付を減らす。

 

④国庫負担を増やす。政府も国民の多くも、国庫負担を増やすとしたら消費増税しかないと考えているから、消費税率を引き上げる。ただし、安倍前首相は首相時代に消費税率を10%まで引き上げた際(2019年)に、今後10年は消費増税はしないと約束したから、この約束を撤回しない限り、今後10年は消費増税できない。

 

以上のうちのそれぞれに、実施可能性がどの程度あるか検討してみよう。

 

①から③はすべて約束破りの手であるから(④は安倍前首相の口約束にすぎないが、10年後なら約束破りにならない)、どれも実施することは困難である。

 

しかし、積立金がゼロになったとたんに、①から③のどれか、あるいはそれらの組み合わせを実施するとすれば、急激な変化が起きて大混乱になるのは目に見えている。

 

①は今後ますます年金受給者が増えることを考えると、給付削減反対の勢力は強まるばかりである。②と③は現行の制度でも予想される、年金の世代間不公平を拡大することになり、現役世代の反発は並大抵のものではないであろう。

 

例えば、年金保険料率をさらに引き上げる場合、鈴木は、2017年度以降もこれまでと同じように毎年0.354%ずつのペースで引き上げていくとして、2100年度の積立金残高が「100年安心プラン」の当初計画と同じ水準になる保険料率を計算すると、32年度までに24.8%になるまで引き上げて、その水準で固定することになると推測している。

 

国民年金の場合は、保険料を17年度以降毎年280円ずつ引き上げ、64年度に月額3万100円(年額36万1200円。20年度は、月額1万6540円、年額19万8480円)になったところで固定する。