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正規社員の実質時給が「非正規社員よりも低い」理由
読者は正規社員の実質時給の上昇率が低いと感じられるかもしれない。
正規社員の実質時給が非正規社員よりも低い原因は、日本の正規社員、とくに大企業の正規社員に適用される日本的雇用慣行、すなわち年功序列賃金制、終身雇用制および企業別労働組合と整理解雇の4条件にある。
企業は正規社員を業績が悪い程度では解雇できない。景気の悪いときの整理解雇も難しい。年功序列賃金制は崩れたと言われ、業績の差によって賃金に差がつくようになったが、年齢が上がるとともに賃金が上昇するという点は崩れていない。
さらに、正規社員の賃金には、いったん上げると経営が悪化しても下げにくいという「賃金の下方硬直性」がある。この「下方硬直性」があるため、アベノミクスで利益率が上昇しても、企業は正規社員の賃金を上げにくいという「賃金の上方硬直性」が生まれる。
つまり、正規社員の賃金をいったん上げると、企業経営が悪化しても下げられないことが、経営が改善しても賃金を引き上げることを困難にしているのである。
正規社員の賃金上昇率が低い原因として、企業別労働組合という日本の特徴的な労働組合制度が挙げられる。なお、イギリスは職業別組合、アメリカは産業別組合と、企業別ではなく、職種別か産業別である。
企業別労働組合は、企業の正規社員で組織する労働組合であり、それに終身雇用制と年功序列賃金制が加わると、いったんある企業に就職したら定年までその企業で働くことが有利になる。そのため、中途採用市場が狭隘(きょうあい)になってしまう。
つまり、よほど有能かつ希少性の高い才能を持っていなければ、正規社員にとって有利な転職はまずないと考えたほうが無難である。
正規社員が置かれたこのような状況では、勤めている企業の成長も大事であるが、バブル崩壊後のデフレ不況の下で起きた「銀行不倒産」神話の崩壊、東日本大震災、リーマン・ショック、非正規社員の急増などを経験すると、正規社員の雇用が守られる「企業経営の安定」こそが重要になる。
つまり、もともと企業別労働組合の正規社員は企業経営者と運命共同体であるが、1990年代以降の経験を通じて、ますます運命共同体意識が高まったのである。