失業者への支援の在り方は、各国でかなり異なる。ここでは、高福祉国家・スウェーデンの労働政策を例に、本当に「就職しやすい環境づくり」とはどのようなものか、前日銀副総裁・岩田規久男氏が解説していく。 ※本連載は、書籍『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「基礎年金を受給できる専業主婦」高福祉国家には“存在しない”ワケ ※写真はイメージです/PIXTA

スウェーデンの雇用保険に組み込まれた「ペナルティ」

スウェーデンの積極的労働市場政策には、公的な職の斡旋(あっせん)にとどまらず、構造不況地域から発展地域への労働者が移動するための助成、産業間・職業間の労働需要のミスマッチを調整するための公共的な職業訓練・教育と企業内職業訓練の助成、障害者・高齢者・母子家庭などの社会的弱者に対する雇用助成金などがある。

 

こうした政策のため、スウェーデンでは、単に失業手当をもらっている失業者よりも、所得保障を受けながら公的な機関や私企業で職業訓練を受けている人のほうが多い。

 

以上は、スウェーデンの積極的労働市場政策の基本方針であるが、具体的には次のような制度である。

 

  1. 失業者が給付を受けるには、地元の雇用局に求職者として登録し、職員とともに就労復帰計画を立てて、それに基づいて求職活動をする必要がある。その際、どのような仕事はできないかを申告し、了承を得ておく。
  2. 1日最低3時間、平均して週17時間、働けることが必要である。
  3. 受給期間中に適当な求人があれば応じなくてはならない。

 

雇用保険には次のようなペナルティが組み込まれている。例えば、参加を勧められた労働市場プログラム(以下で示す「若者保証プログラム」など)への参加を断ったり、求人された仕事を断ると、断るごとに給付が減額され、3回断ると給付を受けられなくなる(※1)

 

他方で、スウェーデンには「保証プログラム」「賃金補助付き雇用」「起業支援」「就労経験」「教育訓練」のような就職を支援する制度が10種類も存在する。

 

例えば「若者保証プログラム」は就職指導に就業体験が組み込まれ、求職サイドと求人サイドのミスマッチを減少させる機能を発揮している。

 

この個別カウンセリングと就業体験を組み合わせた地方自治体主導の「若者保証プログラム」は、失業日数と就職率、就職後の収入などの観点から、他の就職支援プログラムより効率よく運営されているとの評価を得ている(※2)

 

日本の「失われた世代」には、「若者保証プログラム」のような就職支援と就業体験を組み込んだプログラムが用意されていなかった。

 

しかし、「失われた世代」を生んだ最大の原因は、長期にわたって経済をデフレ状態に陥らせた日銀の金融政策であったことを忘れてはならない。