正規社員の実質時給が「非正規社員よりも低い」のはなぜか、そして企業が賃上げを抑制してきたことはなぜ「正しい選択」といえるのか、前日銀副総裁・岩田規久男氏が解説する。 ※本連載は、書籍『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。
日本の正規社員、実質時給は「非正規社員よりも低い」が…“賃上げを望まない”ワケ ※写真はイメージです/PIXTA

社員自身にも「高い賃上げ要求をする気がない」ワケ

このことは、著者が日銀副総裁だった頃の経験が如実(にょじつ)に示している。

 

著者は、日銀幹部が経団連などの財界とばかり懇談会を持っているが、労働組合とも意見交換すべきだと考え、インフレ率が日銀の「量的・質的金融緩和」により上昇し始めた頃、日本労働組合総連合会(通称、連合)の幹部と意見交換したことがある。

 

その意見交換の場で、著者が「これから、インフレ率は上がっていきますから、来年の春闘では、これまで以上の賃金引き上げを要求されたらいかがですか」と尋ねると、連合幹部は「インフレにならなかったらどうなります? 高い賃上げを要求すれば、経営が不安定になってしまいます」と答えたのである。

 

正規社員の賃上げを抑制しているのは経営者だけではない。

 

正規社員自身が抑制し、「経営の安定」を望んでいるのである。だからこそ、企業が賃上げを抑制し、万が一に備えて現金・預金をため込むことを、正規社員も容認しているのである。

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2020年に、予想もしなかった新型コロナウイルス感染症ショックが起きてみると、このような企業と一体となって行動する連合は正しい選択をしたのだとさえ思えてくる。

 

なぜならば、現金・預金を大量にため込んだ企業こそ、このショックを乗り越えるために有利な立場にいるからである。

 

 

岩田 規久男

前日銀副総裁