「軽トラを10台くらい回すようになれば、レクサスに」
焼き鳥屋での親睦会は午後10時前にはお開きとなった。明日も午前5時に起床する竹田さんは深酒をしない。生ビールとレモンサワー2杯で打ち止めだ。今日はすでにシャワーを済ませているため、帰宅後はそのまま布団に入ってぐっすり眠り、明日の仕事に備えて体力を温存するという。
それでも私を見送りに最寄りの駅まで一緒に歩いてくれた。途中、交差点で信号待ちをしていると、私たちの目の前を黒塗りのレクサスが通り過ぎていった。
竹田さんは「軽トラを10台くらい回すようになれば、レクサスに乗れるようになるらしい。元同僚からそう聞いている。オレも早くそのステージまで登りつめたいな。それにしても、レクサスって、ほんといい車だよね」と呟いた。
過去の取材でも同じような話を聞いた記憶がよみがえる。クラウン、セルシオ、そして今はレクサス。時代と共に車種こそ変化しているが、稼げるようになったら国産メーカーの高級車を手にしたいというトラック運送業経営者の嗜好(しこう)は昔のままのようだ。
いつの日か竹田さんがハンドルを握るレクサスに同乗し、軽トラビジネスのサクセスストーリーを聞く。そんなシーンを頭の中に思い描きながら、私は駅の階段を駆け下りた。
刈屋大輔
青山ロジスティクス総合研究所代表