「軽トラ運送業」はトラック運送業とは異なり、車両一台で開業できるため、個人事業主によって営まれることが多い。ネット通販の普及により2010年代半ば以降、新規参入が相次いでいる。物流ジャーナリストの刈屋大輔氏は2019年5月、個人事業主として2年目となる竹田勝さん(仮名)の軽トラに同乗し、取材をおこなった。 ※本連載は、書籍『ルポ トラックドライバー』(朝日新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
「不在票なんてなかった」と難癖も…軽トラ業界「完全な売り手市場」の現状とこれから (※写真はイメージです/PIXTA)

「軽トラを10台くらい回すようになれば、レクサスに」

焼き鳥屋での親睦会は午後10時前にはお開きとなった。明日も午前5時に起床する竹田さんは深酒をしない。生ビールとレモンサワー2杯で打ち止めだ。今日はすでにシャワーを済ませているため、帰宅後はそのまま布団に入ってぐっすり眠り、明日の仕事に備えて体力を温存するという。

 

それでも私を見送りに最寄りの駅まで一緒に歩いてくれた。途中、交差点で信号待ちをしていると、私たちの目の前を黒塗りのレクサスが通り過ぎていった。

 

竹田さんは「軽トラを10台くらい回すようになれば、レクサスに乗れるようになるらしい。元同僚からそう聞いている。オレも早くそのステージまで登りつめたいな。それにしても、レクサスって、ほんといい車だよね」と呟いた。

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過去の取材でも同じような話を聞いた記憶がよみがえる。クラウン、セルシオ、そして今はレクサス。時代と共に車種こそ変化しているが、稼げるようになったら国産メーカーの高級車を手にしたいというトラック運送業経営者の嗜好(しこう)は昔のままのようだ。

 

いつの日か竹田さんがハンドルを握るレクサスに同乗し、軽トラビジネスのサクセスストーリーを聞く。そんなシーンを頭の中に思い描きながら、私は駅の階段を駆け下りた。

 

 

刈屋大輔

青山ロジスティクス総合研究所代表