2020年、物流ジャーナリストの刈屋大輔氏はヤマト運輸のセールスドライバーに取材をおこなった。コロナ禍でのハードな業務は想像に難くないが、ドライバーがより「しんどかった」と語るのは2015~2017年である。アマゾンが台頭した当時について、刈屋氏が解説する。 ※本連載は、書籍『ルポ トラックドライバー』(朝日新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
「アマゾンのロゴを見るだけで…」トラックドライバーの“尋常ではなかった”勤務実態【物流ジャーナリストが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

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アマゾン対応で混乱した「宅急便」の現場

宅配便最大手のヤマト運輸に勤務する松本さん(仮名)は2020年に入社8年目を迎えた。現在はセールスドライバーとして首都圏エリアで「宅急便」の集配業務を担当する。

 

取材に応じてくれたのはまだ初夏の頃だった。にもかかわらず、新型コロナ対策として義務づけられたマスク着用の影響なのか、松本さんの額やユニフォームには汗が滲(にじ)んでいる。

 

街中を一日中走り回る「宅急便」の集配業務はただでさえハードなのに、コロナ元年となった2020年は例年以上に体力の消耗が激しいようだ。もともと細身で顔のまわりもすっきりとしている松本さんだが、少しだけ体重が落ちたという。

 

「4月以降、お客さんから荷物を受け取ったり、渡したりする対面時にはもちろん、台車を押しながら街中を移動する際にもマスクを着用している。マスクの影響で以前よりも仕事中に息が切れるようになったのは事実。でもコロナが落ち着くまでは仕方がない。確かに体力的に仕事はきつくなった。ただ、きつさという意味では、2015年から2017年あたりまでのほうがしんどかった」

 

松本さんが振り返る2015年から2017年にかけて、ヤマトでは「宅急便」の取扱個数が急増した。

 

同社資料によれば、この期間の取扱個数は16億2204万個(2015年3月期)、17億3126万個(2016年3月期)、18億6756万個(2017年3月期)。年間に1億個超が積み上がっていく驚異的なペースで推移した。

 

大幅増が続いた背景には、ネット通販での需要拡大があった。とりわけ増加に寄与したのはアマゾンジャパンの荷物だった。

 

日本に上陸して以降、アマゾンはサイトで販売した商品の配送に宅配便サービスを利用してきた。そのパートナー(委託先)は日本通運や佐川急便などを経て、2013年からはヤマト運輸がメーンとなった。

 

アマゾンの配送を受託したことで、ヤマトの「宅急便」は一気に伸びた。90年代後半に宅配便事業に参入した佐川急便や、民営化後に日本通運の「ペリカン便」を飲み込んで攻勢をかけてきた日本郵便と、熾烈(しれつ)な荷物の奪い合いを繰り広げてきたヤマトにとって、アマゾンは市場シェアを維持、拡大していくうえで不可欠な顧客だった。

 

しかし、取扱個数を増やすことに成功する一方で、「宅急便」の現場は“アマゾン対応”で完全に疲弊してしまった。