「軽トラ運送業」はトラック運送業とは異なり、車両一台で開業できるため、個人事業主によって営まれることが多い。ネット通販の普及により2010年代半ば以降、新規参入が相次いでいる。物流ジャーナリストの刈屋大輔氏は2019年5月、個人事業主として2年目となる竹田勝さん(仮名)の軽トラに同乗し、取材をおこなった。 ※本連載は、書籍『ルポ トラックドライバー』(朝日新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
「不在票なんてなかった」と難癖も…軽トラ業界「完全な売り手市場」の現状とこれから (※写真はイメージです/PIXTA)

完全な売り手市場…竹田さんの「今後の事業プラン」

密着取材のお礼をかねて、竹田さんを食事に誘ったところ、快く応じてくれた。向かった先は竹田さんの自宅近くにある、行きつけだという焼き鳥屋。

 

先に軽トラから降ろしてもらい、生ビールを飲みながら、看板メニューの「とりわさ」をつまんでいると、軽くシャワーを浴びて着替えを済ませた竹田さんがやってきた。追加で聞きたかったのは今後の事業プランだ。

 

「1年ちょっとで仕事にも慣れて、軽トラビジネスの要領みたいなもの(手の抜きどころなど)も摑んできた。いまはできるだけ早く車両の数を10台程度まで増やしたいと思っている。車両の購入はローンを組めば、何とかなりそうだ。

 

手足となって現場で働いてくれそうな若い子分たち(竹田さんから『軽トラの仕事はやりがいがあって儲かるぞ』と吹き込まれている)もすでに7、8人は囲い込んである」

 

竹田さんはこんな青写真を描いている。10人の子分たちから売り上げの5〜10%のコミッション料を徴収する。現在の元請けとの契約だとコミッション料の総額は最大月額46万8千円になる計算だ。さらに引き続き自らもハンドルを握ることで約35万円を加算し、月80万円超の収入を確保する。

 

ただし、竹田さんがコミッションを取った上で、子分たちに十分な手取りを保証するには現在の売り上げでは不十分だ。1日1台当たり2万円超の収入が最低限必要になると試算している。

 

そのため目下の課題は、今より割のいい(委託料の高い)元請けを見つけることだという。

 

「常にアンテナを張って、どの元請けがどのくらいの委託料で軽トラを募集している、といった情報を集めている。ドライバー仲間同士でもそうした生の情報を共有し合っているし、SNSも活用している。

 

仕事の内容はどこも大して変わらないだろう。条件のいい元請けが見つかれば、契約更新のタイミングですぐに移籍しても構わないと思っている」

 

軽トラ業界は現在、完全な売り手市場だ。どこも人手は足りていない。

 

元請けの1社が委託料見直し(値上げ)に踏み切ったところ、同じエリアの他の元請けのドライバーたちが一斉にそちらに流れて、その元請けは配達がままならなくなってしまったという話も耳する。

 

元請けから提示される条件によって次々と嫁ぎ先を変えていこうという竹田さんの“風見鶏”戦略は、一見ドライなようだが、背に腹は代えられない。個人事業主から会社組織への成長を目指す経営者としては、当然の判断なのかもしれない。