「軽トラ運送業」はトラック運送業とは異なり、車両一台で開業できるため、個人事業主によって営まれることが多い。ネット通販の普及により2010年代半ば以降、新規参入が相次いでいる。物流ジャーナリストの刈屋大輔氏は2019年5月、個人事業主として2年目となる竹田勝さん(仮名)の軽トラに同乗し、取材をおこなった。 ※本連載は、書籍『ルポ トラックドライバー』(朝日新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
「不在票なんてなかった」と難癖も…軽トラ業界「完全な売り手市場」の現状とこれから (※写真はイメージです/PIXTA)

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「配達日指定してくれれば…」不在と知りながら向かう

午前10時。この時点で30件の配達を終えた。うち不在は4件。オフィス宛の荷物が多かったこともあり、午前中の不在は少なくて済んだ。

 

ただし1件だけ厄介な届け先があった。前日に2度訪問したが、不在だった。電話を入れてもつながらない。郵便受けに投函した不在票からの折り返し連絡もない。そしてこの日も不在。

 

「3日間訪問(1日に複数回訪問)して何の連絡もない場合には、長期不在という扱いになり、荷主さんにいったん荷物を戻すルールになっている。

 

届け先は単身者で平日は家にはいない。きっと明日も不在だろう。よって長期不在はほぼ確定。配達日を土日に指定してくれればいいのに、その指示がないので、こちらとしては毎日訪問せざるを得ない。

 

面倒なのは、荷物の中身がどうしてもすぐに使いたいものだったりすると、『今から持ってこい』と言われたり、『不在票なんて入ってなかった』と難癖をつけられたりすること。荷主さんに荷物を戻しちゃったら、どうにもならないんだけどね」

 

この日の午前中は計60件の配達を済ませた。すぐに配送デポに戻り、午後の配達分を積み込んだ後、担当エリア近くのラーメン屋で昼食をとりながら午前分の伝票類を整理する。

 

運転席では決して手にすることがなかったタバコを燻(くゆ)らしながら、束の間の休息を取る。最近は配達員のタバコ臭にクレームを寄せる宅配便ユーザーも少なくない。竹田さんの元請けも勤務中の喫煙は禁止しているそうだ。

 

午後の配達は順調に進んだ。不在はほとんどない。ただし、時間が経つにつれて、竹田さんの足取りから軽快さが消えていく。気温は25度を超えている。ユニフォームに汗がにじむ。水分補給の頻度も増えた。

 

午前中は遠慮なく質問を浴びせる私に明るく接してくれていたが、午後に入ると徐々に口数が減っていった。

 

「午後にはわずかだけど、配送デポから集荷のオーダーが入ってくる。効率よく配達するために自分で決めた順番があるのに、その合間に集荷の仕事が差し込まれると、一筆書きで組んだルートが崩れてしまう。

 

しかも、依頼された時間に集荷に行っても、荷揃えが済んでなくて、何分も待機させられることもある。そこで時間が押すと、その後の配達が遅くなる。だから午後はついイライラしてしまいがち」

 

結局、この日は配達と集荷でちょうど100件。合計で130個の荷物を捌(さば)いた。配送デポに帰還し、伝票の整理や日報の提出などを終えて、すべての業務を完了したのは午後7時半すぎ。いつもより30分程度早く家路につくことができた。