▼銀行家の邸宅
女騎士(結局、言われるがまま来てしまった……)
女騎士(こ、これでも私は貴族の血を引く者! 完璧なテーブルマナーで……)
幼メイド「お待たせしました~! ケーキですぅ~!」
女騎士「んほぉ! ケーキ美味しいのぉ~っ!」
幼メイド「おねえ……ちゃん……?」
女騎士(やってしまったー!!)
銀行家「お待たせしました。ケーキはお口に合いましたか?」
女騎士「あっ、え、えっと……その、今のは……!」
銀行家「?」
女騎士「……いや、見ていないのならいいのだ。忘れてくれ」
銀行家「分かりました。では、さっそく本題に入りましょう。ぜひ女騎士さんのご意見をうかがいたいことがあるのです。……じつは最近、帝都の銀行がこの街に支店を作りました。このままでは顧客を奪われて、祖父から受け継いだ店を潰してしまいます」
幼メイド「ひどいやつらなのです、帝都の銀行は! 商売のためなら、しゅだんを選ばないらしいのです」
女騎士「ふむ、笑えんな」
銀行家「ご存じの通り、うちの銀行は債権回収が滞りがちです。ところが私はろくに金融の教育を受けておらず、正直なところ、どうすればいいか分かりません」
幼メイド「おねえちゃん! どうか、だんなさまを助けてあげて!」
女騎士「い、いや……私は……」
女騎士(簿記2級しか持ってないのだが!?)
銀行家「女騎士さん、うちの銀行の立て直しに力を貸してください!」
女騎士「だ、だが……」
女騎士(私には荷が重すぎるし、この人たちを騙すわけにいはいかない……。心苦しいが、ここは断ろう)
幼メイド「はぅ……お願いですぅ……」
女騎士「よし任せろ」
女騎士(って、私は何を……!?)
幼メイド「やった~~~!!」
銀行家「感謝します!」
女騎士「……し、借金の取り立てくらいなら手伝えるだろう。腕っぷしには自信がある」
銀行家「では、さっそく手付け金をご用意しましょう」
女騎士「ほ、本当か!? 助かる!」
女騎士(人間国ではバイトの年収が2万Gくらいだ。だとすると……)
銀行家「30万Gでいかがでしょう?」
女騎士「ぶほぉっ!!」
銀行家「わわっ、どうされました?」
女騎士「けほっ、けほっ。手付け金だけで30万だと!? 5Gの昼メシいったい何日分だ? 駿馬を6頭は買える金額ではないか!」
銀行家「……や、安すぎるでしょうか?」
女騎士「ちっがーう!」
幼メイド「んしょ……んしょ……こちらの革袋に30万Gぶんの金貨をごじゅんびしました~」
女騎士「早いよ!」
▼港町、目抜き通り
女騎士「さて、と。最初の取り立て先は『中央市場』の肉屋だな。……結局、押し切られる形で受け取ってしまった。この30万G、大切に使おう」チャラ……
奴隷商「さあさあ、皆さま! 寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!」
女騎士「おや、あれは……?」
奴隷商「お次は本日の目玉商品でございます! 世にも珍しいダークエルフの娘を入荷いたしました!」
客たち「「「おお~~!」」」
黒エルフ「くっ……」
奴隷商「ご覧ください、このアーモンド色の肌、白金の髪にルビーの瞳! 紳士の皆さま、この娘が20万Gはお値打ちですよ!」
男たち「高すぎる!」「そうだ15万が相場だ!」
奴隷商「どうかそうおっしゃらずに。じつはこの娘……初モノでございます!」
富豪「ふむ、初モノだと? それが本当なら20万を払ってもいいだろう」
女騎士(あの男の襟飾りは……帝都銀行の者か?)
奴隷商「もちろん本当ですとも! ……おい、娘! こっちに来て旦那さまにお見せするのだ!」
黒エルフ「~~!!」
奴隷商「ちっ……。さっさと足を開け!」
女騎士「──待て!」
奴隷商「!?」
女騎士「その娘は、私が買おう」
男たち(ざわ……ざわ……)
富豪「はっはっは! お嬢さんが20万を払うと?」
女騎士「当然だ!」
富豪「ならばわしは21万を出そう。奴隷商、その娘をこちらに──」
女騎士「25万だ!」
男たち シーン
女騎士「25万でその娘をもらい受ける」チャラ……
▼半刻後
女騎士「うぅ、5万Gしか残っていない」トボトボ
黒エルフ「……」じーっ
女騎士「お前は好きなところに行け……と言っても、行くあてなどないか……?」
黒エルフ「……」じーっ
女騎士「まあ、いい。好きにしろ」
黒エルフ「……」じーっ
女騎士「残った5万Gはバイトの年収で2年半分だ。今度こそ大切に使おう……」