▼2ヵ月後、港町
ざばーん! ざざーん!
ウミネコ ミャ~! ミャ~!
船乗り おーい! おーい!
市場の人々 ワイワイ……ガヤガヤ……
女騎士「……ようやく戻ってきたのだな、人間国に」
女騎士「旅の仲間はもういない」
女騎士「私には身寄りもない」
女騎士「……仕事、探すか」
A社面接官「では志望動機を教えてください」
女騎士「御社の明るい社風に惹かれて──」
B社面接官「志望理由はなんですか?」
女騎士「若いうちから挑戦できる御社の雰囲気に──」
C社面接官「んで、志望動機は?」
女騎士「急成長産業に興味を──」
手紙「「「お祈りします」」」
D社面接官「はあ? 複式簿記ぃ~? 簿記2級ぅ~? それって魔国の資格でしょ?」
女騎士「し、しかし、複式簿記はとても便利な技能で、きっと御社の……いいえ、人間国の発展につながるはずです!」
D社面接官「魔物の洗脳を受けたような人は雇えないよ! 帰ってくれ!」
女騎士「……失礼しました」
女騎士「お笑いぐさだな。これでも貴族の生まれだったのに……。もはや家はなく、何の技能もない。私はただ腕っ節が強いだけの女だ。こんな跳ねっ返り娘を嫁に欲しがる奇特な男もいないだろう」
ざばーん、ざざーん…
女騎士「いっそ、あの波に身を投げれば──」
幼メイド「だんなさまぁ~! 待ってぇ~」
女騎士「?」
幼メイド「お待ちくださ~い! ひゃっ!?」ドテッ
銀行家(?)「ああっ、大丈夫ですか! だから家で留守番するように言いつけたのに……」
幼メイド「わたしはだんなさまのメイドです! だんなさまをお1人でお買い物に行かせるわけには……い、痛てて……」
女騎士「ひざをすりむいたか。見せてみろ」
女騎士「……これでよし、と」
幼メイド「わぁ~! おねえちゃん、ありがとぉ!」
銀行家(?)「見事な手際ですね。お医者さま……ではなさそうですが」
女騎士「荒事に慣れているだけだ。そういうあなたこそ……なんだ、その格好は? 服に着られているぞ」
銀行家(?)「ははは、お恥ずかしい……。こう見えて、私は小さな銀行を経営しています。といっても、つい先日からですが」
女騎士「つい先日から?」
銀行家「先日、祖父が亡くなって……父は何年も前に他界していますので、私が経営を引き継ぐことになったのです」
女騎士「それは気の毒に……」
幼メイド「今ではだんなさまが、りっぱにけーえーしゃとしてのお仕事をおつとめなのです!」
女騎士「ふむ。商売のほうは順調なのか?」
銀行家「それはもう。番頭の報告では、ええっと……たしか……利益率は80%を超えていたはずです!」
女騎士「……80%、だと!?」
銀行家「どうかされました?」
女騎士「失礼だが、貸したカネの回収に困っているのでは?」
銀行家「ええ。たしか番頭がそのようなことを言っていましたが……」
女騎士「どんなに優秀な銀行でも、利益率は30%程度だと聞いた。80%は異常だ」
銀行家「そ、そうなのですか……?」
女騎士「おそらく引当金を計上せずに不良債権を放置しているのだろう。回収見込みのない債権の収益を計上すれば、利益は水増しされる」
銀行家「あ、あなたはいったい……!?」
女騎士「私はただの女騎士だ。少し、簿記について教わったことがあるだけで」
銀行家「簿記、ですか」
女騎士「あなたこそ、そんなことで銀行の経営者が務まるのか?」
銀行家「じつは祖父は、芸術を愛するようにと私を育てたのです。そのため……恥ずかしながら、お金のことはからっきしで……」
幼メイド「だんなさま~。それなら、おねえちゃんを雇ってみては~?」
女騎士「!」
銀行家「そうです! ぜひ私の銀行で働いてください!」
女騎士「だ、だが…」
幼メイド「ケーキを焼いておもてなししますっ」
女騎士「好意に、あ、甘えるわけには……」
女騎士(ぐぅ~)
幼メイド「ふふふ~、体は正直ですぅ~」