「軽トラ運送業」はトラック運送業とは異なり、車両一台で開業できるため、個人事業主によって営まれることが多い。ネット通販の普及により2010年代半ば以降、新規参入が相次いでいる。物流ジャーナリストの刈屋大輔氏は2019年5月、個人事業主として2年目となる竹田勝さん(仮名)の軽トラに同乗し、取材をおこなった。 ※本連載は、書籍『ルポ トラックドライバー』(朝日新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
40代・既婚男性が脱サラ「週6日労働、体重10キロ減。手残り35万円」軽トラ運送業の光と闇 (※写真はイメージです/PIXTA)

竹田さんが脱サラして配達ドライバーになったワケ

実際、この日は8時までの間に3件の配達を済ますことができた。

 

「長く同じエリアを担当していると、『あそこの家やオフィスにはこの曜日のこの時間帯なら人がいる』といった情報が頭の中にインプットされるからね。積み込み時に、そのお客さんの荷物があることを見つけたら、この時間帯にトライしてみようかな、と。今日はその勘がズバリ的中したわけだけど、外れる日も結構ある」

 

竹田さんは40代半ば。最近、急に増え始めたという白髪を上品な茶髪に染めている。妻と息子の3人暮らしだ。軽トラのドライバーに転じる前は印刷会社に勤務し、それなりのポジションに就いていた。生活は安定していたが、印刷業界は市場の縮小が続いていて、将来性がないと常日頃から感じていた。

 

ちょうど転職を検討し始めたときに、かつての職場仲間から軽トラビジネスの話を聞いた。彼は竹田さんより2年ほど早く脱サラして軽トラックを購入、個人事業主の一人親方に転じた。その後、宅配便大手からの増車依頼に応えていくかたちで、車両を1台ずつ増やしていった。今では常時7台を稼働させる“一国一城の主”だ。

 

「その元同僚から『軽トラの商売を始める』と初めて聞いたときには、正直なところ、『そんな仕事で儲かるわけがないだろう』と心の中では馬鹿にしていた。しかし、あっという間に車両とドライバーの数が増えていく様子を目の当たりにして、この商売にはチャンスがあるんだな、と。

 

当時、メディアでは連日のように宅配便需要の急拡大で配達ドライバーが不足している、と報道されていた。そのニーズは長く続きそうなので、オレも挑戦してみようという気になった」

 

その後の竹田さんの行動は早かった。すぐに中古車販売業を営む知人から走行距離約4万キロの中古の軽トラを60万円で購入。黒ナンバー(営業ナンバー)の登録手続きなど独立開業に向けた準備に取り掛かった。

 

開業準備と並行して、宅配便会社や軽トラ運送会社が月1〜2回の頻度で定期的に開催している「パートナー説明会」にも積極的に参加した。ネット通販会社などの荷主から宅配便の配達業務を委託されている元請け会社が、彼らの手足となって配達してくれる個人事業主や中小零細の軽トラ会社を“リクルーティング(採用活動)”するための会合だ。