「行政が新制度を創設」それでも定着は期待できない
行政や業界団体もドライバー不足対策に向けて動き出している。
トラックドライバーという職業は、まず小型トラックで運転のノウハウや経験を積んで、中型トラック、大型トラックに乗務をシフトしていく、というのが通常のキャリアパスだ。
そのため、特に高齢化の進む大型トラックの長距離ドライバーを安定的に確保していくには、いかにキャリアとしての出発点である小型トラックのハンドルを、若年層に握らせるかがカギとなる。
そこで、業界をとりまとめる全日本トラック協会では、国土交通省や警察庁など関係省庁と連携し、運転免許制度の見直しに着手した。その結果、3.5トン以上7.5トン未満のトラックを運転できる「準中型免許」が新たに創設されることになった。新制度は2017年3月にスタートした。
「準中型免許」は、18歳以上であれば「普通免許」がなくても取得が可能だ。さらに、免許取得時の技能教習は「普通免許」とほとんど変わらないなど、経済的負担も少ない。「準中型免許」をとれば、高校卒業後すぐに、宅配便を運んだり、コンビニのルート配送を行ったりするサイズのトラックに乗務できるようになる。
トラック運送業界では、この法改正によって、「仕事に就くためのハードルが下がることで、若年層が再びトラックドライバーという仕事に興味を示してくれるようになるはずだ」(全日本トラック協会)と期待を寄せている。
日本社会では、長時間労働が常態化する仕事のあり方に、厳しい目が向けられている。労働力への依存度が高いトラック運送業はそんな業種業態の一つだ。運転免許制度の見直しなどを通じて、仮に若年層をスタートラインに立たせることに成功したとしても、肝心の労働環境の改善が進まなければ、定着率の向上は期待できない。
より待遇のいい仕事を求めて人材が他の業種に流れていくことは必至だ。
そうなれば、「トラックドライバーは現時点ですでに10万人超が不足している。2028年にはその数が約28万人に膨れ上がる」(鉄道貨物協会)という予測も現実味を帯びてくる。
浅井さんのような中高年の現役ドライバーたちがトラックから降りてしまったら、その後はいったい誰が荷物を運んでくれるのか。トラックドライバーが「きつくて稼げない仕事」であり続けるかぎり、その担い手として名乗りを上げる者は出てこない可能性もある。
刈屋 大輔
青山ロジスティクス総合研究所 代表