55歳・長距離輸送のトラックドライバーである浅井さん(仮名)のトラックに同乗し、密着取材をした物流ジャーナリストの刈屋大輔氏。ここでは同氏が、トラックドライバーの賃金や人手不足の実態について解説していきます。 ※本連載は、書籍『ルポ トラックドライバー』(朝日新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
バブル全盛期には年収1000万円も目指せた、トラックドライバーの現在 (※写真はイメージです/PIXTA)

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年収は500万円で横ばい…“きつい上、稼げない”職業に

トラックドライバーの仕事は、肉体的、精神的な負荷が大きい上、拘束時間が長い。厚生労働省の2019年の調査によれば、年間労働時間の全産業平均は2076時間であったのに対し、大型ドライバーは2580時間、中小型ドライバーは2496時間だった。月ベースだと大型ドライバーで42時間、中小型ドライバーで35時間長く働いた計算になる。

 

実際、この日、名古屋に到着した時点で、浅井さんの拘束時間はすでに8時間半を経過。さらに大阪までの運転時間を加えると、ちょうど12時間となる計算だ(休憩時間を含む)。

 

それでも、労働の対価は低く抑えられている。バブル全盛期の80年代後半には、「年収が1000万円を超えるトラックドライバーも少なくなかった」(大手トラック運送会社社長)が、1990年の規制緩和(新規参入要件の緩和、運賃の実質自由化など)で事業者間の競争が激化。以降、運賃値下げや景気低迷などの影響で、トラックドライバーの待遇は悪化した。

 

厚生労働省の調査によれば、2019年度、大型トラックドライバーの年間所得額は456万円、中小型トラックドライバーは419万円。全産業平均の501万円と比較すると、大型ドライバーで約1割、中小型ドライバーで2割ほど低い。つまり、トラックドライバーは、このおよそ30年の間に、きつくても稼げる仕事から、きついにもかかわらず稼げない職業に転落してしまった。

 

実際、浅井さんの年収は500万円弱。ここ数年、その額はほぼ横ばいだという。

 

トラックドライバーの数はピーク時に約90万人に達していた。しかし、総務省によれば、その数は2015年時点で80万人にまで落ち込んだ。職業としての魅力が薄れてしまったことが大きく影響している。