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最期を迎えたい場所は「自宅」だが
■自宅で介護を受けながら暮らすのが基本
介護が始まろうとしているとき、介護をする人が思い違いをしがちなことがあります。それは、居宅での介護と施設入所のふたつの選択肢があると考えることです。
しかし、介護は居宅からスタートするものであり、それをつづけるのが大原則。施設入所は居宅での介護が限界を迎えたときに浮上する選択肢なのです。
居宅介護が重視されるのは、国の方針ということもあります。国が推進しているのが「地域包括ケアシステム」。要介護になった人も、住み慣れた地域で自分らしい生活をつづけられるように地域で支えていこうというしくみのことです。
その拠点となるのが各自治体に設置されている地域包括支援センターであり、個別に要介護者に対応するのが居宅介護支援専門員、つまりケアマネジャーということになります。
また、それ以上に居宅での介護が優先されるのは、介護される人自身の気持ちの問題があります。厚生労働省が高齢者を対象に「最期を迎えたい場所」についてアンケート調査(平成28年『厚生労働白書』)をしたところ「自宅」と答えた人が54.6%と半数以上を占めました。
これに次いだのが「病院などの医療施設」で27.7%。そして「特別養護老人ホームなどの福祉施設」と答えた人はわずか4.5%でした。
この調査結果を介護に置きかえてみれば、「できれば自宅で最後まで介護されたい」「病気になってそれが叶わなければ、病院に入院するのも仕方がない」「施設に入れられるのは嫌だ」ということになるでしょう。高齢者施設にみずから進んで入りたいという人は、ほとんどいないのです。
ただし、体の衰えや死がまだ身近なものと感じられない世代の介護者には、その気持ちがわかりません。インターネットで高齢者施設をチェックしてみると、どこもきれいで設備が整っています。介護のスキルをもつスタッフがそろっていて、食事や入浴をはじめ、生活のことは心配ないですし、体調が急変した場合も対応してくれる。そのように合理的に考え、「施設に入れば安心じゃないか」と思うわけです。
入居費が安価な特別養護老人ホーム(特養)にしても、最近は個室が多くなり、快適に暮らせそうに見えます。入所希望者がキャパシティをはるかに上まわっており、入所の順番待ちの人であふれているという報道を目にすることも多く、やっと入所が決まれば、大喜びするといった話もあります。しかし、大喜びするのは介護をする人であって、入所する本人ではありません。
介護家庭で施設入所の話が出ると、介護される人と介護する人、つまり親と子のあいだでは長い論争に発展することが多いはずです。気が強いタイプの親なら断固拒否するでしょう。気がやさしい親の場合は、入所を了承するかもしれません。それは、子どもに迷惑をかけたくないという親心からの譲歩であって、心のなかでは泣いているのです。