前回は、実際の売買交渉についての心構えを解説しました。今回は、優良物件に仕立てるための「演出」について見ていきます。

不動産の価値は、あくまでも「使用価値」にある

物件を高く売るためには、やはりそれなりの準備が欠かせません。なぜならば、どんな商品でもそうですが、まったく同じものでも演出(見せ方)によって、売れ行きがまったく異なってくるからです。

 

たとえば、透明なペットボトルに水道水を詰めて、路上で売ろうとしてもなかなか売れませんが、「ニッポンのおいしい水」などと銘打ったラベルを貼って、キンキンに冷やして、炎天下の暑い日に、人通りの多いところで売れば飛ぶように売れるでしょう。それと同様に、不動産の売却にあたっても演出が重要になります。

 

たとえば、「駅徒歩15分築30年2階建て戸建て(神戸市東灘区)」なんて何の変哲もない紹介で売るよりは、「阪神大震災で震度7を経験してもびくともしなかった頑丈な家(耐震検査済み)」と紹介したほうが、興味を持ってくれる人が多いでしょう。

 

あるいは、古い平屋建ての家であれば「階段の乗降が不要で年配者に優しいコンパクトハウス」として売り込んだり、部屋数が多くて使い勝手の悪そうな間取りであれば、壁をぶちぬいて部屋を広くするリノベーションを施したり、同じ物件でも売り方を変えれば価格もまた変わってくるものです。不動産というものを、金(ゴールド)のように、それ単体で絶対的な価値があると勘違いしている人が多いようですが、それは大きな間違いです。

 

不動産の価値は、あくまでも使用価値です。美術品のように土地を眺めて楽しむ人は少ないですし、同じ通り沿いの物件を意味もなく次から次へと取得して悦に入る人はもっと少ないでしょう。不動産は、どんな使い方ができるのか、あるいはどれだけの収益を上げられるかが価値の源泉であって、鑑賞したりコレクションしたりするものではないのです。

 

ですから、あなたが所有する不動産を高く売りたいと考えるのであれば「このような使い方ができます」あるいは「こんな使い方はいかがですか?」と、お客様に提案することです。「この不動産は、こんなふうにして、こんな人に貸すと、これだけの収益が出ますよ」とプロポーザルすることで、多くのお客様の耳目をひきつけることができます。また、ただ提案するだけではお客様の反応が鈍いことがあります。

 

なぜならば、あなたは自分の不動産ですから、長い時間をかけて使用方法や価値を考えていますが、お客様にとっては初見の物件ですから、そこまでの想像力が働かないのです。そこで、口先だけで提案するだけでなく、実際にお客様の使用しやすいようなかたちにまで持っていくことも大切です。

売り物件の「リフォーム」が欠かせない理由

たとえば、地形の悪い土地でも、広い建物が建てられますよと示すのであれば、実際に建築士を使って図面の例をいくつか描かせてしまえばいいのです。具体的な図面を見せられれば、お客様にも土地の使用方法についてイメージが湧きます。

 

あるいは、築年数の古いマンションですが、鉄筋コンクリート造で躯体はしっかりしていますから、外壁塗装とリフォームで見違えるようにきれいになります、と主張したいのであれば、実際にリフォームして新築同様にしてから売却すればよいのです。もう一つ例をあげましょう。収益物件を売却する場合、空室のある物件はてきめんに敬遠されます。

 

ですから、空室のある物件は空室のまま市場に出すのではなく、いったん満室にしてから売りに出せばよいのです。それだけで価格がかなり違ってきます。もちろん「満室にする」といっても、売りに出すような物件には魅力がありませんから、簡単なことではありません。しかし、魅力がなければ、作ればよいのです。

 

空室になっている部屋だけでも、リフォームして、トイレや浴室を取り替えて、エアコンやインターホンを新しくすれば、それだけですぐに入居者はつきます。あるいは、敷金
や礼金をなくしたり、フリーレント期間をつければ、入居者もつきやすくなるでしょう。とにかく、アパートは空室のあるまま売りに出してはいけません。理想をいえば、周辺相場よりも高い賃料で貸していて、なおかつ満室であるような状況が望ましいでしょう。

 

あなたが、素敵だと思う異性に声をかけるときのことを考えてみてください。起きたままのぼさぼさの頭にぼろぼろの服で、顔も洗わず歯も磨かずに、異性をデートに誘おうとする人はいないでしょう。それなのに、大切な不動産を売りに出すときには、顔も洗わず服もそのままに、ありのままの姿で市場に送り込んでしまう人の、なんと多いことでしょうか。

 

ディズニー映画の『アナと雪の女王』のエルサは「ありのままの姿見せるのよ」で、晴れ晴れとした気持ちになりましたが、それは彼女が人との交わりを断って、雪の女王として氷の城に閉じこもることを決めたからです。

 

あなたの不動産も、他人に売るのではなく、自分が使用するのであれば「ありのままの姿」でもかまいませんが、人に見せて買ってもらおうとするのであれば、おめかししていちばんいい姿を見せなければなりません。私が、不動産を売るにあたってリフォームを欠かさないのは、以上のような理由からです。

 

ほとんどの人は、売却のためにわざわざお金をかけてリフォームなんてしませんが、それをすることで3割以上も価格がアップするのだとしたらどうでしょうか。売却不動産は商品であり、商品はきれいにディスプレイされてこそ売れる商品たりうるのです。

本連載は、2016年1月29日刊行の書籍『「ワケあり物件」超高値売却法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「ワケあり物件」超高値売却法

「ワケあり物件」超高値売却法

松本 俊人

幻冬舎メディアコンサルティング

「駅から遠い、築年数が古い、ごみ収集所が近くにある――そんな物件を持つオーナーは、高値売却の方法について頭を悩ませているのではないでしょうか。本書では、どんな「ワケあり物件」であっても優良物件に変える巧みな「演…

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