買い手は売り主の足元を見るのが基本!?
不動産に限った話ではないですが、交渉事というものは、より強くその取引を成立させたいと願っているほうが、妥協せざるを得なくなるものです。不動産の売却でいえば、売り手側のほうに、より強く取引を成立させたい願望があるといえるでしょう。なぜならば、買い手側は購入候補をいくつか持っているのに対し、売り手側は、購入の意志のあるお客様をそんなに数多くは持っていないからです。
購入を検討しているお客様がたった一人ということもよくあります。そのため、売り主にとっては、より高く売却したいという交渉はハードなものになります。どちらかといえば、不動産の売買においては、買い主のほうが、より安く購入したいと交渉を仕掛けてくるものです。
なぜならば、買い主のほうは「ここまで安くなったら購入する」と条件をつけて交渉することができますが、売り主のほうは広告に出した売り出し価格よりも高くするような交渉はできないからです。売り出し価格が売り主にとっての最高価格で、たいていはそれよりも成約価格が安くなるのが常です。
もちろん、買い主のほうが「決済の時期を遅らせてほしい」とか「解体して更地にしてほしい」とか「リフォームして新築同様にしてほしい」などと、売り出し時の文句にはない新たな要求を出してきたときは、それに合わせて価格を上げるよう交渉することはできますが、まあ難しいでしょう。買い主の要求は、実質的な値下げの要求ですし、たいていの買い手は価格が上がるなんてまったく想定していないからです。
そこで、売り主にとって重要なのが売り出し価格になります。安すぎる売り出し価格に設定すると、問い合わせが殺到して1週間以内に売却が決まることもあります。このような場合、売り主は「もっと高く売れたのではないか」と後悔することもありますが、それは結果論でしかありません。
実際、不動産の売却は運とタイミングによって決まることが多いため、同じ価格でも半年間売り出す時期がずれるだけで、まったく問い合わせがないこともあります。一方、高すぎる売り出し価格にすると、まったく問い合わせがなく、広告費と時間が無駄になります。
また、そのような物件は、その後、値下げしていくことになりますが、不動産の購入を考えているお客様の多くはある程度の期間にわたって市場を定点観測しているので、値下げされた物件に対しては「お得な物件」というよりも「何らかの理由で売れなかった物件」というネガティブなレッテルを貼ることが多いようです。
交渉は喧嘩ではなくビジネス
最初は高すぎる売り出し価格にしておいて、徐々に値下げしていく方法は、物件価値を低めこそすれ、高めることはありません。幸いなのは、不動産には成約事例による相場価格が存在することです。そのため、相場価格に合わせた売り出し価格にしておけば、たいていは間違えることはありません。不動産の相場価格は、素人には判断が難しいものですが、プロであればそれほど大きな違いは出ません。
ですから売り出し価格の設定にあたっては、プロの助言を仰ぐことが必要なのです。ここで注意したいのは、不動産仲介業者は売り主のパートナーであって、敵ではないことです。業者は早く売りたいために安い価格を提案してきますが、そのことで感情的にぶつかってもいいことはありません。不動産業者と交渉をして高めの売り出し価格にしたところで、実際にその価格で売れるとは限らないからです。
もし理由があって高めの売り出し価格にしたい場合は、冷静に、しかしきっぱりとその旨を伝えれば、たいていの業者は言うことを聞いてくれます。売り出し価格が決まった後は、購入意思を見せたお客様との価格交渉になります。ちなみに、もしお客様が現れない場合は、あなたの想定よりもその物件の市場価値が低かったということになりますので、値下げをしてください。
購入の意思があるお客様は、購入申込書で希望価格を提案してきます。実際の交渉はここからです。お客様の提案する価格をつっぱねることは簡単ですが「じゃあ、いらない」と言われてしまっては元も子もありません。
相手がどれくらいこの物件を欲しがっているのかと、もしこのお客様がいなくなって、しばらく他に問い合わせがなかったとしても自分はどれくらい我慢できるのかとをはかりにかけて、価格交渉に応じるかどうかを決めましょう。このときに、自分の物件の長所をアピールすることもできます。
南向きで日当たりがよいとか、土地が大きいからマンションも建てられるとか、相手が想定していなかった長所をアピールできれば交渉がまとまりやすくなります。一方、買い手の側も、物件の短所を指摘して値下げを要求してくることもあります。聞いているとしばしば不愉快になることもありますが、交渉は喧嘩ではなくビジネスですから冷静に対応しましょう。
不動産の場合、大事なのはいくらで売れるかよりも、確実に売れることです。あまり強く交渉して高値で売却しても、買い主を不愉快にさせてしまうと、後から瑕疵があったとクレームをつけられて後味が悪くなるので、ある程度は買い主の要望を聞くことが、交渉をまとめる秘訣です。