巨大民間企業の背後に存在する「政商勢力」
反中色の強い華僑ネットワーク情報では、権力エリート(権貴)は自らの手を汚さないよう誰かを白手袋(白手套)にして、電力、金融、情報通信、運輸関連企業を掌握し、ほぼすべての権貴が程度の差はあれ不動産に関与している。
恒大グループの恒大物業買収を計画していた、広東省の5大開発業者の1つで私企業の合生創展の創業者・会長の朱孟依氏も、かつての指導部の1人だった葉剣英と同郷の広東省梅州市豊順県の出身で、以前から、不動産業界で最も謎に包まれた人物で背後に巨大な政治勢力が存在すると言われている。「白手套」を介して不動産企業を立ち上げ→国有商業銀行が多額融資→業界活況のイメージ形成→香港市場に上場し資金取り入れという構図だ。
特に巨大民間企業の後ろには必ず「政商勢力」が存在し、恒大の場合、江沢民元国家主席と曽慶紅元国家副主席を筆頭とするいわゆる江曽派の重要資金源になっている。他方で、同派は習近平国家主席の長年にわたる「心腹大患」、つまりそのままにしておくと危険な存在で、国家主席3期目続投の障害になっている。曽氏と許氏は香港の富裕層向け倶楽部などを通して家族ぐるみで親しい関係にある(図表5、6)。
曽氏の「白手套」とされる財閥の明天集団は恒大とも近く、許氏や曽氏と親しい創業者の肖建華氏は2017年香港で消息を絶ち、汚職容疑で現在も拘束中という。さらに明天系の包商銀行(本拠地内蒙古)は19年5月、信用リスクを理由に当局管理下に置かれ、21年3月北京市第一中級人民法院から破産裁定を受けた。10月初に米ドル債務の返済が滞った開発大手の花様年(本拠地深圳)創業者・CEOの曽宝宝氏は曽氏の姪で典型的な「紅色権貴一族」の1人。一族については、曽氏の弟で曽宝宝氏の父親曽慶准氏は香港経済界で有名な人物で、いわゆるパナマ文書(16年)にもその名前が載っている。
曽慶紅氏の子供の曽偉氏は2007年、帳簿価格をはるかに下回る価格で国有企業電力会社の山東魯能の譲渡を受け数十億ドルを儲けた、また08年には同氏がシドニーに購入した高級住宅を巡り現地政府と揉めたことが、紅色権貴の富をひけらかす(炫富)最も悪い例の1つとして伝えられるなど、以前から様々な話がある。曽氏が金融機関に圧力をかけ資金支援することは容易なはずだが、それがないことは曽氏自身が政治的になんらかの窮地に陥っていることを示すもの、また当局に近い地元経済誌が曽宝宝氏に言及しつつ、花様年にマイナスの報道を繰り返している真の目的は曽氏への攻撃といった憶測がある。
真偽は定かでないが、一部に江曽派との関係に加え、国有化が不可避な状況に民営企業を追い込むため、救済どころか、習氏自ら金融機関に対し恒大への資金供給を断つことを指示し「導火線に火をつけた」との噂まである。いまのところ恒大問題に「淡定」な中央だが、最終的な重要判断には習氏と江曽派の関係という政治的要因が絡んでくるかもしれない。
9月、党中央は新たな政治スローガン「共同富裕」を打ち出した。不動産業界は、すでに2021年10月に全人代常務委員会が決定した固定資産税(房産税)の試験的導入、大手開発業者に対する反独占管理強化、安価な政府保障性住宅の供給増による民間市場圧迫といった厳しい影響を受けることが予想される。経済的には不動産業界の債務リスクが改めて注目されたことで、同業界の業況をさらに悪化させる政治スローガンの実施には困難が伴うことが予想される。他方政治的には、「共同富裕」が富を独占してきた不動産企業関係者を淘汰し、その背後にある一定の政治勢力を排除する大義名分になる可能性がある。
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