風力発電所の建設ラッシュで、健康に影響がでる恐れも
風力発電所は、年間を通じて風が吹く地域に集中する傾向があります。エネルギーとして利用できる風の資源量が最も多いのは北海道で(全国の約50%)、次いで東北地方が約22%を占め、これらの地域では風力発電所の建設が急増しています。
たとえば、北海道石狩湾新港地区では、2005〜2007年にかけて、定格出力1.5メガワットと1.6メガワットの風車3基が設置されている程度でしたが、2018年以降、風力発電事業者が次々と参入し、3メガワット級の風車合計19基(約60MW)が稼働しています。
さらに、8メガワット級の洋上風車を港湾地区に14基設置する計画や、港の外の石狩湾洋上に大規模な風力発電所を建設する計画もあります。
風車が大型化するほど、設置数が増えるほど、音の影響は強くなります。石狩市は人口約6万人で、隣接する札幌市の人口は約195万人、小樽市は約12万人です。このような人口密集地に隣接して、大規模な風車群が設置されるのは、世界的にも稀です。大規模風車群が稼働すれば石狩市だけでなく、小樽市や札幌市を含む広範囲で健康被害が出る可能性が指摘されています。
風力発電の先進国イギリスでは計画の大半が中止に
ヨーロッパは日本よりも早く風力発電所が導入されてきましたが、地域住民の反対によって計画中止になったケースも少なくありません。イギリスで行われた調査では、約80%の人々が風力発電を支持していますが、実際に建設される風力発電所は、計画された事業の約25%に過ぎません。つまり大半の75%は建設中止になっています。なぜこのようなギャップが生まれるのでしょうか。
ギリシャ、エーゲ大学のミカエル・カリディス博士は、一般の人々は風力発電などの自然エネルギーを好む傾向はあるが、自分が住む地域に設置されることになると強い反対が起きる、と述べています。
反対する主な理由は、植物や動物など環境への影響、低周波音・超低周波音による健康影響、景観破壊や住宅の資産価値の下落です。一方、政府や投資家は、主に経済面に関心があり、自然を犠牲にする傾向が見られる、カリディス博士は指摘しています。
近隣住民の反対によってヨーロッパでは陸上に風車を設置するのが難しくなり、陸地から遠く離れた洋上に風力発電所を設置するようになっていきました。
しかし、大陸棚が広がり水深が浅いヨーロッパの海と違って、日本は海底の地形が急峻です。そのため住宅地に近い沿岸部や港湾での風力発電導入が進んでいます。
温暖化を防ぐために再生エネルギーを推進するとしても、周辺住民や環境に影響が出ないように、各国の疫学調査なども参考にして十分な安全距離をとる必要があるでしょう。
また、風車の羽根に鳥がぶつかって死亡するバードストライクの問題もあります。風車を設置する際は、周辺の動植物に悪影響を与えないよう、環境影響評価を慎重に実施するほか、地域住民への情報公開を行ない、合意形成をすることも必要になるでしょう。