世界銀行による「ビジネス環境ランキング」において、中国が圧力をかけてランキングを上昇させたとの疑惑が浮上した。「国際機関発信の情報は中立的」との共通認識を揺るがす事態に各国は動揺。しかし、そもそも「中立的なデータ」とは何か。元財務省官僚で、膨大な経済データを収集・分析、予測を行ってきた筆者が考察する。

ランキング廃止に踏み切った世銀の判断は「妥当」

ランキング策定作業の技術的詳細は承知しないが、常識的には定量指標と何らかの形で数値化した定性指標の集合を基に総合指数を算出し、ランク付けしたものだろう。しかし、定性指標の数値化には必ず恣意性が入り完全な客観性を維持することは困難な一方、定性指標を考慮しなければ意味がない。この種のランキングは便利でわかりやすいが、一度できると一人歩きし大きな誤解を招くものが多い。

 

特に自らが発表するものが多くの人から信用されることが当然わかっているはずの組織が、その信用を逆手にとってこうした問題のある指標を発表するのは、組織として無責任だ。その点からは、ランキングを廃止するとした世銀の判断は妥当だろう。

 

他方、世銀と中国がランキングに関し事前に話し合っていたことは、一概に「けしからん」とも言えないのではないか。

「国際機関発信の情報=完全な中立」との思考は捨てよ

世銀やIMFは、他にも様々な分野にわたるレポートを発表している。国別報告書には加盟国に対する政策提言的内容も含まれる。当然ながら、事実関係の正確な把握が必要であり、政策提言は当該国の現行政策がどのような背景の下で形成されたものかを踏まえなければ説得性がなく、絵に描いた餅に終わってしまう。

 

これらの作業は当該国の全面的な協力なしには成し得ないものだ。国別報告書(日本)を例にとれば、世銀やIMFの調査チームが日本の関係省庁に資料提出など協力を求め、調査チームが作成したドラフトを両者間で調整するという水面下のプロセスがある。調査チームに日本の省庁からの出向者が入る場合もあるだろう。

 

利益相反の問題があるが、国際機関、日本政府双方にとって便利だ。こうしたプロセスは日本に限らず、他国の場合も概ね同様だろう。事実関係のチェック・解釈と、それを踏まえた政策提言の調整が問題となる。

 

提言については、悪く言えば、当該国にとって都合のよいように歪められるということになるが、提言がより現実的、説得的になり、当該国が受け入れ実行する可能性が高いものになるという利点もある。当該国がなんらかの国内事情で実行したくてもできない改革を国際機関に書かせ、それを外圧にして実行しようとするケースもあり得よう。

 

かかる調整プロセスをすべて止めるべきとの意見もあろうが、そうすると、象牙の塔に閉じこもった学者の単なる研究論文と変わらず、国際機関として発信する付加価値はなくなる。重要なことは、国際機関が発信する様々な情報は、「どの国の利害や思惑からも離れた中立的なもので信用できる」というナイーブな考えを捨てることだ。

 

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