「毎月の支出」に留意し、過度に節税を意識しない
最後に、無事開業してから注意しておきたい、お金のコントロールについてお話ししたいと思います。医療とはいえ、「商売」です。商売で一番つらいのはお金がないことです。お金があれば、新しい医療機器も購入でき、優秀なスタッフを雇うこともでき、患者さんに心地よい診療空間も提供でき、先生の思いどおりの医院をつくることができます。
開業してからはお金が不足しないように、資金管理が大事になります。開業し、首尾よく集患にも成功すれば、診療収入がどんどん入ってきます。その金額は、当然ながら勤務医時代の給料に比べると、かなり多くなるでしょう。ここで気をつけたいのは、大きな金額が転がり込んできたことによって、気が大きくなりすぎてしまうことです。
かつての給料の10倍以上診療収入があったとしても、そのすべてが自分の手元に残るわけではない――というのは、みなさんもおわかりのとおりです。注意すべきは、出ていくお金がどれくらいかという点。
開業ローンの返済に、家賃、人件費など、入ってくるお金以上に、毎月の支出も多額に上ります。毎月の支出にとどまらず、将来の納税資金やリニューアル費用など、後でドカンと出ていくお金も、計画的に蓄えていかなければなりません。
初年度は赤字になりやすいので、納税を免れる場合が多いですが、2年、3年と経過していくと納税額が増えていきます。したがって、きちんと対策をしておかなければ、納税の時期にキャッシュが足りず、青ざめる……といった事態になりかねません。
そうかといって、過度に節税を意識しすぎると、必要以上にお金が出ていってしまうこともあります。通常、節税は「経費を増やして税金を減らす」という方法で行うため、どうしてもお金は出ていくことになるのです。「節税という名の無駄遣い」には十分ご注意ください。
税理士などの専門家を積極的に活用していく
しかしながら、お金が出ていきすぎるのは危険なことでもあります。使っても使っても、どんどんお金が入ってくるならいいのですが、そうとばかりは限りません。その結果としてお金がなくなれば、希望している医療機器が買えなくなったり、スタッフ研修にお金をかけられなくなったりと、本当に必要なことにお金を使えなくなってしまいます。
税金を減らすことばかりに夢中になってしまい、かえって歯科医院の体力が弱くなるような支出をするのは、本末転倒といわざるをえません。理想的な歯科医院をつくるには、お金のコントロールが大切なのです。コントロールがきちんとできて、お金が足りていれば、たとえ赤字であっても倒産はしません。
そのために必要なのは、まず毎月出ていくお金をしっかりと把握し、貯蓄に回すべきお金も概算で構わないので計算しておくことです。そのうえで、納税額や将来の設備投資のために毎月どの程度蓄えていけばよいのか計算すれば、キャッシュフローを健全な状態に保つことができます。
とはいえ、こうした問題は、お金に不慣れな先生にはなかなかピンとこないものかもしれません。通常、歯科医院にきっちりお金を残すキャッシュフロー経営に関しては、税理士に相談するケースが多くなっています。税金の申告のためだけに税理士報酬を支払っている歯科医院も多いですが、それはあまりにもったいない話です。
お金を使うからには、少しでも税理士を有効活用すべきでしょう。税理士の立場からすると、前途有望な先生が、お金のコントロールでつまずいてしまうことほど悔しいことはありません。事前にアドバイスを受けていれば、確実に防げる問題だからです。
お金の問題に限らず、開業にあたっては専門的で難しいこと、わからないことにも何度となくぶつかるはずです。しかし、世の中にはそれぞれの分野に精通したエキスパートがいて、しかるべき人に尋ねれば、明確なアドバイスをもらうことができます。
開業は1人で行うものではなく、そうしたさまざまなエキスパートの手を借り、力を結集して行うものです。開業に関して「逆境の中、たった1人で大きな借金を背負い込んで、高い壁に挑んでいく孤独な戦い」といったイメージを持つ先生もいるかもしれませんが、実際にはその手を引いて、うまく壁を乗り越えられるよう協力してくれる人も、たくさんいるのです。