ひきこもりのきょうだいを持つという苦悩
こうしたリスクが、就職氷河期世代の高齢化によって顕在化するのは先の話になるが、ここでは将来そうした事態につながりかねない、実際に不安や困難を抱える家族・きょうだいの現状をみてみよう。
「九州在住の42歳の女性は、親と同居している40歳の独身の妹の将来に不安が尽きない。妹は大学を卒業して以来、実家で年金暮らしの両親と同居しながら、契約社員として働いている。
(中略)
いまは両親ともに元気だが、介護が必要となれば、いずれは妹と同居をすることも選択肢に考えている。しかし、『自分の子どもたちに迷惑はかけたくない』という思いももちろんある。万が一の場合、女性が経済的に支えられるかは心もとない」
(日経電子版、2019年9月1日、「自立難しいきょうだい『トリプルケア』どう避ける」)。
きょうだいや親を思う一方で、いまの家庭への心配を募らせる様子が伝わる。
ひきこもりが続くきょうだいの場合は、より不安は大きい。
「北海道の42歳の男性は、4歳年上の独身の兄がいる。兄は大学を卒業して会社勤めをした後に、独立したがうまくいかず、いまは71歳の母が住む実家で6年間引きこもりが続いている。母と兄の生活費は、亡くなった父の遺族年金の月8万円ほど。母からは生活に困っていると訴えられ、子どもと共に帰省するたび生活費を渡し、一方で兄からも頼まれ10万円を貸したままだという」
(北海道新聞、2018年8月2日朝刊、「『きょうだいリスク』を考える 兄弟姉妹の将来が不安 希薄な家族関係 親の年金頼りに」)。こうした問題やケースを知って、「一人っ子でよかった」と思う人もいるとのことだ。
もっとも、このような困難を抱えるなかでも、「これまで家族としてともに生きてきたのだから、親やきょうだいを支えたい、守りたい」と考える人は多い。実際に、前述の北海道の男性は、ひきこもりの兄を「『その時』になったら助けてしまうかもしれない」といっている。
できる範囲で家族を助けていくことは、一つの手ではあるだろう。しかし、より重要なのは、就職氷河期世代への支援を通じて彼ら/彼女らの経済的・社会的自立を進めることで、同世代本人が身を置く厳しい状況ときょうだいなどへの困難の連鎖のいずれも解消していくことである。