就職氷河期世代には、新卒時に無職、または非正規雇用となった後、現在でも新たな正規雇用や正規への雇用転換を果たせていない人が少なくない。もっとも、正規雇用においても、かつての正社員と比べて環境は厳しくなっている。日本総合研究所・主任研究員の下田裕介氏が就職氷河期世代の実情について解説していく。 ※本記事は、書籍『就職氷河期世代の行く先』(日本経済新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
「勝ち組になれない」氷河期世代…正社員の間でみられる“世代間格差” (※写真はイメージです/PIXTA)

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「正社員、既婚子持ち=勝ち組」ではない現実

正規雇用においても、賃金カットやポストの削減、成果主義の導入などを受けて、収入の伸びが頭打ちとなるなど、かつての正社員と比べて環境は厳しくなっている。

 

そこで、学卒後直ちに企業に就職し、同一企業で働き続ける労働者の賃金カーブを世代別にみてみよう。物価変動の影響を取り除くために、総務省「消費者物価指数」を用いたうえで、実質ベースの所定内給与の賃金カーブで比較してみる([図表1])。

 

注:2015年を基準とする帰属家賃を除くCPIで実質化。データの抽出や凡例については、連載第6回[図表1]の(注)を参照。
[図表1]賃金カーブ(標準労働者、大学卒、実質) 注:2015年を基準とする帰属家賃を除くCPIで実質化。データの抽出や凡例については、連載第6回[図表1]の(注)を参照。

 

これをみると、就職氷河期世代より下の世代では、上の世代の同じ年齢階級時との間で賃金水準のかい離がみられる。

 

例えば、男性においては、団塊ジュニア世代の賃金カーブは40代前半から上の世代とかい離が生じ、▲4万〜▲3万円程度低い。40代後半でも、上の世代とのかい離は解消しないままである。

 

また、ポスト団塊ジュニア世代(前期)においても、同様に上の世代とのかい離が生じ、40代前半では▲6万〜▲5万円程度低い。

 

そして、女性においても同じ傾向がみられ、30代後半以降、上の世代とのかい離が生じていることが確認できる。

 

一方、いわゆる、正社員として働きながら結婚し、家庭を持っているケースを想定し、家計を営む世帯単位でみても、就職氷河期世代の厳しい状況が浮かび上がってくる。総務省「家計調査」を基に、二人以上の世帯のうち勤労者世帯における収入をみてみよう([図表2])。

 

注:2015年を基準とする帰属家賃を除くCPIで実質化。データの抽出や凡例については、連載第6回[図表1]の(注)を参照。
[図表2]世帯収入(二人以上の勤労者世帯、実質) 注:2015年を基準とする帰属家賃を除くCPIで実質化。データの抽出や凡例については、連載第6回[図表1]の(注)を参照。

 

[図表1]の賃金カーブと同様に実質化してみると、まず、一家の大黒柱とされる世帯主の収入が伸び悩んでいる。

 

例えば、30代後半においては、団塊ジュニア世代、ポスト団塊ジュニア世代(前期)ともに収入が約42万円と、上の世代であるバブル世代や新人類と比べて、▲3万〜▲5万円ほど低い。

 

また、団塊ジュニア世代の40代後半、ポスト団塊ジュニア世代(前期)の40代前半は、それぞれ収入が増えるものの、新人類など上の世代との収入の開きは総じて埋まっていない。