経済的な自立が難しく、親元を離れることができないケースも多い就職氷河期世代。同世代の年長者である団塊ジュニア世代には、まもなく親の介護と、それに伴う「生活困窮者」の増加が始まろうとしている。今後就職氷河期世代が直面する問題について、日本総合研究所・主任研究員の下田裕介氏が指摘していく。 ※本記事は、書籍『就職氷河期世代の行く先』(日本経済新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
氷河期世代・111万人に迫る苦難「親の介護スタート」に崩壊の足音 (※写真はイメージです/PIXTA)

手取り12万円「一人暮らしや結婚なんて別世界です」

大学を卒業した後にも親と同居を続ける未婚者については、社会現象・社会問題と認識されるとともにさまざまなネーミングで呼ばれてきている。

 

なかでも有名なのは、「パラサイト・シングル」である。1997年、社会学者の山田昌弘氏(中央大学教授)が、日本経済新聞のなかで紹介したことが初めとされる。その後、著書「パラサイト・シングルの時代」によってさらに広く知られることとなる。

 

パラサイト・シングルとは、学卒後も親と同居し、基礎的生活を親に依存している未婚者を指す。自分の収入はほぼ可処分所得となるため、リッチな独身生活を楽しむ。親元にいるメリットを上回らないのであれば結婚しない。それゆえ、非婚化や少子化を助長する――パラサイト・シングルが提唱された当時は、そのような意味合いが込められていた。当時はメディアでもパラサイト・シングルのリッチな様子が伝えられていた。

 

「大手食品メーカー一般職のノブエさん(29)は毎日、自宅から会社まで1時間半かけて通う。入社3年目ごろ、さすがに疲れると一人暮らしも考えたが、結局やめた。

 

『うちは親がうるさくないから“下宿状態”で楽。洗濯物も洗ってくれるし、食事も上げ膳据え膳。そう考えたら、一人暮らしのために月10万円も使うのはもったいないと気づいた』。

 

月の給料の手取りは約15万円。英会話にエステ、お茶などの習い事で消える。ボーナスは海外旅行の資金になる。勤め始めの2ヵ月間だけ家に月1万円を納めたが、『いらないわよ』といわれ、今は1円も入れていない」(朝日新聞、2000年2月24日朝刊、「パラサイト・シングル増殖中 親元に“寄生”リッチな20-30代」)。

 

もっとも、長期にわたる景気低迷によって、「パラサイト・シングル」は、就職氷河期世代のように安定した職に就けずに経済的な自立ができないため、生活をしていくうえで親の収入を頼りにせざるを得ない人という意味合いでも語られるようになっていった。例えば、近年は、このような形で「パラサイト・シングル」という言葉が使われている。

 

東洋経済オンライン2018年8月8日のジャーナリスト藤田和恵氏による記事「月収12万円で働く39歳男性司書の矜持と貧苦 勤続15年でも給与水準は採用時からほぼ同じ」をみると、ここで紹介されている39歳の男性は、首都圏のある図書館で司書の仕事をしている。

 

国立大学を卒業後に地元の公立図書館に採用された。採用形態は非正規雇用。しかし、働き始めた当時は、全国の各自治体で採用された司書のうち、正規公務員の割合は7割近かったこともあり、いずれは正規雇用の司書になれると考えていた。ところが、その後、正規雇用の司書は減り続け、ここ数年では、正規雇用の募集人員は全国で年間数十件にすぎないという。

 

彼は勤続15年で、研修や勉強会にも参加し、自分なりに研蹟を積んできてはいるものの、1年ごとに契約更新を繰り返す嘱託職員。毎月の手取り額は12万円ほどである。彼は自嘲気味に「僕の場合、持ち家に母と同居している“パラサイトシングル”。だからなんとか生活できている。一人暮らしや結婚なんて、どこの別世界の話?という感じです」と語っている。

 

一方、就職氷河期世代の多くが40代を超えた2010年代半ば頃から、ネットを中心としたコミュニティーで話題になったのが「子ども部屋おじさん/おばさん(こどおじ/こどおば)」である。

 

はっきりとした定義はないが、一人暮らしや結婚などをして独立することなく、そのまま親と同居し、実家の自分の部屋(当時の子ども部屋)を使って暮らし続けている人を指すようだ。パラサイト・シングルの概念にも近く、彼ら/彼女らが年を重ね中年にさしかかったことからもこの造語が注目された。

 

パラサイト・シングル、子ども部屋おじさん/おばさんといった造語の誕生や意味合いの変化は、いずれも就職氷河期世代が抱える課題に関係している面も大きいといえよう。