Q 3軒連なるテラスハウスのいちばん奥の建物を購入しました。仲介業者から各戸の建物は区分され、個々に建替えができると聞いていたのですが、後日、道路に接していないので建替えが不可能だといわれました。当初の3戸が建築できたのに、なぜ今になって建替えができないのでしょうか。
本来は各戸ごとの建替えが可能なはずだが・・・
テラスハウスはタウンハウスとも呼ばれる連棟式建物です。一見すると昔の長屋のように壁面で各戸が接している建物なのですが、それぞれ専用の庭をもち、各戸ごとに区画された低層の集合住宅です。限られた敷地の中に庭付きの低層集合住宅を作ろうとするような場合の建築方法の1つであって、全体の景観がよく、費用対効果も大きいので、最近また人気がでてきました。本問が3住戸連棟式テラスハウスだとすると、それは3つの建物に明確に区分され、各戸ごとに取引の対象になり、登記も個別になされ、本来は各戸ごとの建替えが可能なものです。
このようなテラスハウスの1区画建物の建替えができないというのは、次の理由によるものと考えられます。
まず、建築基準法上、都市計画区域内の建物敷地は原則として幅が4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければなりません(43条1項、42条1項)。そして、この場合の1つの建物敷地には1つの建築物というのが原則であって、母屋と物置というように、用途上不可分の場合にのみ2つ以上の建築物が認められるにすぎません(同法施行令1条1号)。
本問では、【図1】のように当初の建築確認申請時において当該テラスハウス全部を1つの建物として、その接道要件を満たし建築確認を得たものであると思われます。ところが、各戸ごとに建替えということになると、建物は3つであることを意味しますから、接道要件の基準となる建物敷地も3つに分割されていなければならないのですが、本問では、そのような敷地分割も不可能な状態にあると想定されます。
【図1】
建替えには建築基準法上の原則を満たすことが必要
では、本問のようなテラスハウスに関しては、1区画ごとの建替えというのは、そもそも不可能になってしまうのでしょうか。実は、次のような方法によって1区画ごとの建替えも可能になってきます。
第1に、3住戸連棟式建物では、【図2】のような敷地分割が代表的なものです。このような敷地分割ならば、前記の1敷地に1建築物という建築基準法上の原則を満たすことができます。この場合、各敷地いずれもが公道に2メートル以上接していなければなりません。本問では、建物の位置関係などから、もはやこのような分割のできない敷地であったと推測されます。
【図2】
第2に、【図3】のように、当該テラスハウス敷地の一部を道路にして道路位置指定を求めるということも考えられます。いわば敷地の中に建築基準法上の道路を取り込んで接道要件を満たそうというものです。しかし、各戸のテラスハウスの前庭を削る等しても4メートル幅の道路を確保できるのかという問題があります。
【図3】
このように、当初、【図1】のような形で建築確認申請を得たとしても、その後の敷地分割が【図2】または【図3】のように可能であるならば、建替え時にはそのような敷地分割を前提として建築確認を得ることができるのです。もっとも、それが可能であったとしても、市区町村によっては、宅地の細分化防止の指導要綱などがあって、例えば、60平方メートル未満の宅地分割は原則認めないとしているところもあります【東京地判平成9年1月28日判時1619号93頁参照】。
ということは、本来明確に区画されたテラスハウスを建築するためには相応の敷地面積が必要であり、公道と接する面も相応の距離がなければならないわけです。【図2】または【図3】をご覧になってわかるように、3住戸連棟式建物では、3つに分割した敷地のそれぞれが建築基準法上の道路に2メートル以上接していなければならず、かつその分割敷地の中に1戸の建物が建ぺい率にも適合するような形でおさまっていなければならないのです。
このようなことから、当初から、敷地分割ないし位置指定道路の認定が困難であることを承知の上で、一建物敷地という前提でテラスハウスを建築する例があります。本問もこのようなケースと思われます。
本ケースでは、契約解除、売買代金等の返還請求が可能
本問において、結局、各戸ごとの敷地分割が不可能ということになると、奥の住戸だけの建替えもできないことになります。
ところで、宅地売買の媒介にはいった宅建業者には、その取引に関する重要事項を書面をもって説明しなければならない義務がありますが(宅地建物取引業法35条)、宅地及び建物の売買に関しては、建物の建替え(再築)ができるか否かというのは重要な事項というべきであって、建替えの可否が説明されていなかったというのは右重要事項の説明義務違反に問いうるものです。と同時に、右説明義務は当該売買契約上の付随義務の1つと考えられ、この義務の不履行は契約解除原因になるものというべきです【前掲の東京地判平成9年1月28日】。
この場合、売主自身が再築不可であることを知らなかったとしても、これは仲介業者を通して知りうべき事柄というべきであって、売主自身の契約違反と考えてよいでしょう。
したがって、本問において、買主は契約を解除して売買代金及び仲介手数料の返還を求めることができます。さらに、本問の場合、建物の建替えの可否というのは、契約の「要素の錯誤」であり、あるいは「隠れた瑕疵」ともいえるので、買主は、錯誤による契約無効あるいは瑕疵担保責任による契約解除・損害賠償請求という法的構成によっても損害の回復を求めることができるでしょう。