現在、中小企業のM&A(企業の合併・買収)が活況を呈しています。M&Aを選ぶ経営者は本気で後継者を育成する努力をしたのでしょうか。後継者がいないからと安易に条件を満たしたM&Aの買い手を探すことではない。残された社員、取引先が不幸にならないよう、慎重に進めるべきだという。後悔しないM&Aには何が必要なのでしょうか。

残された社員が幸せになるM&Aを目指せ

■M&Aは会社存続の最終手段と考えるべし

 

私は決してM&Aそのものを否定しているわけではありません。

 

事実、私からお客さまへM&Aをご提案することもあります。しかしそれは、何度も後継者探しをしたけれど候補者が見つからず、社長が70歳を超える年齢で、後継者を育てる時間も残されていない、という極限状態の瀬戸際、最終手段としてのご提案です。

 

当社でM&Aを進める際は、ただ単に条件を満たした買い手を探すのではなく、残された社員の方々が不幸を被ることのないよう、取引実行後のサポートも徹底しています。

 

例えば、買収した親会社と買収された子会社との間のギャップを埋めて、関わる人すべてにとっての幸福なM&Aを目指します。給与体系や理念や人事制度などをすり合わせ、客観的な立場から支援アドバイスを行います。

 

M&Aをする際はこのように、残された社員の幸せを考えてくれるところに委託するのが絶対です。決して買収価格など表面的な条件だけに踊らされて、業者にいわれるがままに買収を決めてはいけません。

 

■タイミングを間違うと悲劇

 

M&Aは最終手段と申し上げましたが、決断を後回しにしたために悲劇に見舞われるというケースもあるので、この点にも気をつけなければなりません。

 

そもそもM&Aは、販売商品となる会社や事業そのものに価値があって、初めて交渉が成立するものです。

 

ある会社の社長はすでに70歳を過ぎており、後継者候補もおらず、現在の事業規模では、業績は低下する一方でした。

 

あまりM&Aを推奨しない私も、このときばかりはM&Aを第一に提案しました。社長も了承し、私のほうで買い取ってくれる買い手候補を見つけてご紹介したのです。

 

ところが、先方との間で折り合いがつかず、買収は破談となってしまいました。私としては「各条件は希望を満たせているのに、なぜ」という気持ちが消えなかったのですが、社長としては「もっとふさわしい買い手を見つけたい、それまでは私が切り盛りしていく」という意向でした。社長なりのこだわりがあったようです。

 

その一年後、また相談に来られました。「やっぱりM&Aをしたい」と言うのです。

 

このときすでに、会社の業績は去年よりかなり下がっている状況で、おまけに多額の借金も抱えてしまっていました。事業の先行きは見通せない状態で、返せるあてなどありません。

 

つまり、会社の価値はゼロどころかマイナスなのです。M&Aしたら、もれなく借金というおまけもついてくるのですから、買い手が出てくるはずがありません。

 

残念ながら、もう諦めるしかありません。破産を待つだけです。そして残るのは借金だけです。保証人となっていた社長は多額の負債を背負うことになります。「一年前に売っていれば」と思っても後の祭りです。

 

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※本連載は藤間秋男氏の著書『社長引退勧告 1年以内に次期後継者を決めなさい』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、再編集したものです。

社長引退勧告 1年以内に次期後継者を決めなさい

社長引退勧告 1年以内に次期後継者を決めなさい

藤間 秋男

幻冬舎メディアコンサルティング

「社長の年齢が60代の中小企業のうち、約半数は後継者が決まっていない」――中小企業庁が発行している「中小企業白書(2020年版)」のデータです。 事業を引き継ぐ人がいないということは、たとえ経営が安定していても、廃業も…

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