慶應義塾普通部、東京海洋大学、早稲田大学等で非常勤講師をしながら「海外教育」の研究を続ける、本柳とみ子氏の著書『日本人教師が見たオーストラリアの学校 コアラの国の教育レシピ』より一部を抜粋・再編集し、知られざるオーストラリアの教育について紹介していきます。
「日本の教師」は仕事しすぎ?オーストラリアの教育現場と比較して分かったこと (※写真はイメージです/PIXTA)

日本は「学級」に関わる責任の多くが担任にある

学級の概念が違うので、担任の役割も日本とは異なる。日本では学級に関わる責任の多くが担任にある。担任は常に学級の実態を把握し、生徒との人間関係を深め、健全な学級集団をつくり上げることが求められる。

 

個々の生徒についても責任を負うのは担任だ。だから、問題が起きると直ちに担任に連絡が行く。担任以外の教師が授業をしているときであっても、担任が呼ばれることがある。

 

担任は現場に直行し、指導に加わる。時に、指導が全面的にバトンタッチされる。必要に応じて保護者に連絡し、対応するのも担任だ。問題がうまく解決すればよいが、そうはいかないときだってある。すると担任は批判にさらされる。

 

「担任は何をやっている」「普段の指導はどうなっている」「学級経営がだめなのではないか」という批判だ。「親の顔が見たい」に通じるものかもしれない。

オーストラリアの教師が驚いた、日本の担任の常識

生徒が校外で問題を起こしても担任に「出動要請」が出ることがある。万引きやけんかなどで休日に呼び出しを受けたことのある教師は少なくないのではないだろうか。授業中も休み時間も、放課後や休日も気を抜けないのが日本の担任だ。

 

こうした話をオーストラリアの先生にすると、誰もが一様に驚く。生徒指導は担任だけでなく、すべての教師の仕事だろうと言う。ましてや、授業中の問題は授業を担当する教師が対応すべきで、担任が駆けつけるなどということはない。

 

下校後や休日に起きた問題に対応することもあり得ないと言う。それは保護者が対応すべきことだからだ。オーストラリアの担任が学級に関して行う業務は、出欠確認や保護者面談などごく限られた範囲だ。事務的な仕事もほとんどやらない。

 

生活指導をしたり、生徒の相談に乗ったりすることはあるが、担任だけが担うわけではない。生徒の指導はすべての教師の責任だ。

生徒間の団結を生む「ハウス(学寮)」システム

団結は学級より「ハウス(学寮)」で求められる。

 

ハウスシステムを取り入れる学校は少なくない。ハウスは「ハリーポッター」にも登場する英国の寄宿学校がルーツのようで、全校生徒は学年の枠を超えて縦割りのグループに分けられる。

 

各ハウスには名前がつけられ、色も決められる。ハウスの色やシンボルマークをあしらった揃いのユニフォームを着てイベントに臨むこともある。

 

在学中はずっと同じハウスに所属し、兄弟姉妹は同じハウスになることが多い。ハウスごとに上級生がリーダーとなり、団結を育むのだ。

 

スポーツ大会はハウス対抗で行われる。音楽会などの文化的行事やボランティア活動もハウス単位で行い、成果や業績がハウスのポイントとして蓄積される。

 

学業で優秀な成績を収めたり、模範的な行動をしたりすると所属するハウスにポイントが加算されていく。そうした中で生徒の中にハウスに貢献しようとする気持ちが芽生えていくのだ。

 

日本では学級対抗の行事が多く、その中で学級の団結心や帰属意識が育まれ、一体感が生まれていくが、学級の機能が薄いオーストラリアではハウスがその機能を果たしていると言える。オーストラリアの教育が英国の流れを汲んでいることの一つの表れだろう。