脱サラして一念発起、突如「異国の地ルワンダ」でASIAN KITCHEN(アジアンキッチン)を開業した、シングルマザーの唐渡千紗氏。今夏、重版された書籍『ルワンダでタイ料理屋をひらく』(左右社)では、同氏が経験した「珍事の連続」が赤裸々に語られています。アジアンキッチンの大きな課題は「味の安定」。不安定さは、シェフたちの「タイ料理への馴染みのなさ」、そしてルワンダの「物流事情」によるもののようです。
「東京で暮らすよりも高くつく」…アフリカ内陸国で働く日本人の苦悩 ルワンダの首都・キガリの風景(※画像はイメージです/PIXTA)

中国人から「野心を持つ人が多いの。日本の若者はどうなの?」

アジアンキッチンへの影響としては、調味料の品切れ問題が大きい。調味料は、砂糖と塩以外は、舶来品だ。タイ料理の奥深い風味に必要なナンプラー、醬油、オイスターソース、各種スパイスなどなど、ほぼどれもアフリカ大陸では製造されていない。

 

アジア系調味料は、中華系スーパー、各種スパイスは、インド系スーパーで買う。インド系スーパーには、庶民向けから富裕層向けまで、いくつか系列がある。アジアンキッチン横の富裕層向けスーパーも、インド人が経営している。さすがカレーの国だけあって、小さな店へ行っても、スパイスにはかなりのスペースが割かれていて、棚を眺めるのが楽しい。

 

ある日、胡椒を買いに、イノセントというスタッフをインド系スーパーへ送った。しばらくして、「何軒か回りましたが、どこも品切れでした」と手ぶらで戻ってきた。

 

「え? 品切れ? どこも? いやいや、インド人のスーパーで胡椒が品切れなんて、そんなことありっこないって。ちゃんと探したの?」

 

「はい、ちゃんと店員にも確かめました」

 

「うーん。そんなはずはない。私、行ってくる!」

 

勇んで行ってみると、本当になかった。品切れしているのはここだけだろうと他も当たるが、どこにもない。キガリ中で胡椒が品切れなんて……! これにはインド人もびっくりだ。

 

それにしてもやはり印僑、華僑は強い。アフリカのルワンダという、祖国から遠く離れた内陸国でも、逞(たくま)しくビジネスを展開している。人数で見ても、この2つの国は圧倒的に多い。

 

あとは、アメリカ人、イギリス人、そして旧宗主国だからか、ベルギー人も本国の人口の割に多い。だが、その大半は国際機関やNGO関連、ビジネスといってもソーシャルビジネス寄りの人である印象だ。やはり、商魂逞しくビジネスを展開しているのは印中なのだ。

 

インド人には、家族がもう何代も前からケニアなどの近隣国に根付いてビジネスを展開しており、自分はそこからルワンダに来た、というような人が多い。英国がアフリカに植民地を作る際、インド人を労働力として大量に連れて来たという歴史的背景もある。

 

一方中国人は、ビジネスチャンスを探して来た、という人が多い。ルワンダで知り合った中国人は、「自分の世代は、成功して豊かになりたい、という野心を持つ人が多いの。日本の若者はどうなの?」と言われて、少したじろいでしまった。