脱サラして一念発起、突如「異国の地ルワンダ」でASIAN KITCHEN(アジアンキッチン)を開業した、シングルマザーの唐渡千紗氏。今夏、重版された書籍『ルワンダでタイ料理屋をひらく』(左右社)では、同氏が経験した「珍事の連続」が赤裸々に語られています。アジアンキッチンの大きな課題は「味の安定」。不安定さは、シェフたちの「タイ料理への馴染みのなさ」、そしてルワンダの「物流事情」によるもののようです。
「東京で暮らすよりも高くつく」…アフリカ内陸国で働く日本人の苦悩 ルワンダの首都・キガリの風景(※画像はイメージです/PIXTA)

「だからタイ料理屋なんて誰もやってないんだな」と思ったワケ

例の、百均の粗悪品版が売られているのは、キガリ在住者なら誰もが知る大手中華系スーパーなのだが、品揃えはキガリ随一だ。広い2階建ての店内には所狭しとさまざまな商品が並べられている。埃っぽい倉庫のような店内で、多くの品物には埃が溜まっている。この店から帰るとすぐシャワーを浴びたくなるほどだ。

 

買い物をしていると、「ナンバー・トゥー! ナンバー、トゥー!!」と、マネージャーと思しき中国人男性の大きな声が聞こえる。番号で呼ばれているのは、ルワンダ人スタッフだ。「ナンバーツー」と呼ばれたそのスタッフは、ボスのもとへ走って指示を聞き、そしてまた走って品物を取りに行く。

 

大きなスーパーなのでレジが複数列あるのだが、その一番奥にはいつも同じ中国人女性が腕組みをして立っていて、レジ係員をしっかり見張っている。不正を働いていないか、さぼったりしていないか、目を光らせているのだ。

 

手足を動かすのはルワンダ人だが、中国人スタッフも多く、管理系の業務は全て中国人が掌握しているようだ。この手のマネジメントは中国やインドならではで、それが彼らの強みでもある。

 

この中華系スーパー、キガリ随一の品揃えだけあって、それなりに種類は豊富だ。けれども、在庫が切れると、しばらく入ってこなくなるのが難点。商品は基本的に全てコンテナで主に中国から運ばれる。売り切れても、翌日すぐに空輸で入荷、というわけではない。一度なくなると、次は数ヵ月後、ということも少なくない。

 

そんな状況なので、ナンプラーなど、タイ料理に欠かせない調味料は見つけた時に買い占めておく必要がある。これがまたキャッシュフローを圧迫するのだが、なくなると困るので、そうするしかない。

 

しかも、輸入されてくる調味料のブランドがコロコロ変わる。そうなると、味も変わってしまう。これは厄介だ。このブランドの場合、味がきついから入れる分量を半分にする、など、レシピが複雑になってしまうのだ。乾麺も、ブランドによって茹で時間が変わってくる。

 

そもそもの話、日本で手に入る調味料と比べて明らかに品質が劣っている。せめて何種類かから選べればいいのだが、その時にマーケットにあるものを買うしかない。もう少し品質のいいブランドが、いつでも、必要な分だけ手に入ったら、どんなに楽だろう……。

 

だからタイ料理屋なんて誰もやってないんだな、きっと。いやぁ納得! ハハハ! ……と考えていてもしょうがない。あるもので勝負するのだ。

 

ああでもない、こうでもないと改良を重ねる私に、いや、どれも大して違わないって!と最初は突っ込みたそうだったシェフたちも、最近では一生懸命ついてきてくれる。陸の孤島のルワンダで、行けるところまで行ってみよう!

 

 

唐渡 千紗

ASIAN KITCHEN オーナー