脱サラして一念発起、突如「異国の地ルワンダ」でASIAN KITCHEN(アジアンキッチン)を開業した、シングルマザーの唐渡千紗氏。今夏、重版された書籍『ルワンダでタイ料理屋をひらく』(左右社)では、同氏が経験した「珍事の連続」が赤裸々に語られています。ルワンダのお客さんの、日本のお客さんと大きく異なる点は「注文の多さ」。笑ってしまう注文もあれば、ありがたいご指摘もあるようです。
日本人シングルマザー、ルワンダでタイ料理屋をひらく…「注文の多いお客さんたち」から学ぶ生き残りのヒント ルワンダの首都・キガリの風景(※画像はイメージです/PIXTA)

スイート・チリ・チキンを注文した欧米人「甘くしないで、チリは苦手だから使わないで」

スタッフとの文化の違いに大いに戸惑いながらも、実はお客さんもなかなかに日本とは違う。バーミヤンでバイトした経験から言うと、日本のお客さんは、とっても注文が少ない。アジアンキッチンのお客さんは、注文が多いのだ。

 

例えば、同じグリーンカレーでも、欧米のお客さんは、この野菜を抜いてくれ、辛さはマイルド目がいいんだけど、それでいてチリを少しきかせて欲しい、など、カスタマイズの要望が多い。

 

日本だと、行きつけの小料理屋なら、「大将、今日はちょっといつもより濃い目の味付けがいいな」なんてこともあるかもしれないが、初めて行くカジュアルレストランで、アレルギーなどは別にしても、あまり注文はつけないだろう。「グリーンカレー」とだけ注文して、出てきたものを食べる。それが日本では一般的なスタイルだ。

 

そんな文化の違いに最初は戸惑ったが、しばらくすると慣れてきた。少々のカスタマイズはあるもの、という意識で注文を取る。それでも、たまに変化球はある。

 

欧米人の男性がご来店。アクセントからすると、アメリカ人だろうか。

 

「いらっしゃいませ! ご注文承ります」

 

「このスイート・チリ・チキンをお願いします」

 

スイート・チリ・チキンとは、人気メニューの一つで、炒め揚げにした鶏肉を、タイお馴染みの、甘辛くて少し酸味のきいたスイートチリソースで野菜と一緒に炒め合わせる。

 

「スイート・チリ・チキンですね、承知しました!」

 

「あ、それでね、甘くしないで欲しいんだ。で、チリは苦手だから使わないで」

 

「スイート・チリ・チキン、スイートじゃなくして、チリもなし、ですね? ……はい、かしこまりました」

 

了解したものの、えっと、では一体チキンをどうすれば……? 結局、鶏肉の炒め揚げを、スイートチリソースを使わずに、醬油など他の調味料で炒め合わせた、完全に別の料理になってしまった。それでも、お客さんにはご満足いただけたようで、胸を撫で下ろす。