財貿易はコロナ禍と完全離脱で減少
英国はEUからの完全離脱でEUの関税同盟からも離脱、英国の関税率は、英国独自のグローバル関税(UKGT)に切り替わった。
英国とEUの貿易は、関税ゼロ・数量規制なしのFTAを柱とするTCAに基づくものに替わり、第3国との貿易もEUとして自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を締結していた地域との間では、日英包括的連携協定(EPA)などEUのFTAやEPAを叩き台に締結しなおした新協定が発効した。
英国の財の貿易は、コロナ禍と完全離脱による2度の衝撃を受けた。パンデミックで世界的に貿易が落ち込んだ同年4月※に急減した後、一旦回復し、21年初に再び急減した。21年初の衝撃は、輸出入の両面で、EU向け[図表3]が、EU以外との貿易[図表4]よりも大きかった。
※CPB World trade monitorによる
EUからの輸入は、21年1月の大きな落ち込みの後、回復傾向が続いているが、完全離脱前の水準には達していない。20年末にかけて、移行期間終了による関税や通関手続きの発生、物流の混乱を懸念し、事前に在庫を確保するための輸入が増加していた。
21年初の落ち込みには、在庫積み増しの反動という面もある。EU向けの輸出は、大幅な落ち込みの後、完全離脱直前の水準を回復しているが、ビジネス投資のようにコロナ前から停滞気味だった。
英国とEU以外の地域との貿易については、21年初の変化は、EUとの貿易に比べて小幅だったが、輸入には20年4月を底とする回復トレンドが見られるのに対して、輸出は停滞が続いている。
財輸出の伸び悩みは、EUとの通商条件の変化や、ワクチン接種で先行した英国の4~6月期の回復が、他地域よりも力強かったことなどによる一時的な現象であれば、いずれ解消するだろう。しかし、EUによる財の流れに関わる自由度の低下を織り込んだサプライチェーンの変化という、より構造的な変化が生じている可能性もある。
世界的にも、コロナ禍による生産や物流への影響が続いており、一時的な現象なのか、構造的な変化なのかを現段階で判断することは難しい。
サービス貿易縮小の主因はコロナ禍
サービス貿易は、輸出入共に19年7~9月期をピークに減少に転じ始め、20年初に大きく落ち込んだ後も、戻りが弱い[図表5]。
大幅な減少と戻りの弱さの主因はコロナ禍にある。2019年7~9月期と21年1~3月期のサービス貿易の減少のうち、輸出では4割、輸入では5割が「旅行(英国への外国人旅行者と英国人の海外旅行者の宿泊費、飲食費等の受取・支払)」の減少によるものだ。
20年初に激減していることからも、コロナ禍の打撃が大きいことがわかる。「輸送(国際貨物、旅客運賃の受取・支払)」も、輸出入の減少の2割強を占めている。コロナ禍による旅行者の減少が主要因と思われるが、完全離脱による通関手続き等の導入も一定の影響を及ぼしている可能性がある。
EU離脱も、コロナ禍より小さいものの、影響を及ぼしている。英国国家統計局(ONS)は、「国際サービス貿易サーベイ(ITIS)」で、21年1~3月期のサービス貿易の変動要因として言及された回数を「コロナ禍」の66回に対して「EU離脱」は13回であったとしている※。
※ONS ‘The impacts of EU exit and coronavirus (COVID-19) on UK trade in services: July 2021’, 27 July 2021
英国の主力産業である「ビジネスサービス」、「金融」の貿易も、「旅行」、「輸送」に比べれば幅は小さいが減少している。「ビジネスサービス」と「金融」は、比較的コロナ禍の影響を受けにくい業種であり、EU離脱による金融の単一パスポートの失効、専門資格の相互承認見送りなどへの対応が反映されている可能性はある。
サービス貿易に占めるEUとの取引の割合は、特に輸入で低下している[図表6]。EU経済が、他地域よりもコロナ禍で大きな打撃を受けたことによる影響ばかりでなく、後述するとおり、単一市場からの離脱に対応したビジネス・モデルの見直しも一定の影響を及ぼしていることが推察される。