「この前預けたお金、今日精算しよう」まさかの回答
「エブリン、この前預けたお金、今日精算しよう。いくら残ってる?」
「残ってないです」
「え? 全部使ったの? だいぶ余ると思ったんだけど」
「はい、一旦は、半分くらい余りました」
「だよね。それどこ?」
「使っちゃった。プロブレムですか?」
「……え? 使っちゃった? 何に? え? 自分のものにぃ⁉」
なんと、経理担当が、全く無邪気に会社のお金を着服しているではないか!
「いや……会社のお金だからさ。勝手に使っちゃダメだよ。えーっと。なんて言ったらいいんだろう。えっと」
私も混乱して、何をどう言えばいいのかわからなくなってきた。そんな私にエブリンは「ウップス」と舌でもぺろりと出さんばかりにつぶやいただけだった。
もちろんエブリンには返金を要求したけれど、「無理です。ないものは返せないからねぇ」と悪びれもせず答える。そうなのだ。返せと言ったところで、ないものは返せない。こんなことは、エブリンだけではない。
結局、内装工事で多くの人に騙し取られたお金※5も、証拠を突きつけて返金を求めたところで、ないものは返せない。相手が悪いことを、お天道様のもと証明できたとして、だからといって一円も戻ってこないのだ。貯蓄もない、その日暮らしの人たちだ。ない袖は振れないとはまさにこのことだ。
※5 工事がなかなか進まなかったり、頼んだものと別物を作られたりして、ぼったくられた総額はかなりのものになっていた。