都営住宅、「桐ヶ丘団地」。建替えにより、住民たちは移転を余儀なくされてきました。移転による地域コミュニティの崩壊と孤立が及ぼす、高齢者へのさまざまな悪影響について、文化人類学博士の朴承賢氏が解説します。※本連載は、書籍『老いゆく団地』(森話社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「ほんとに怖かった」都営団地の建替え…高齢者が直面した死活問題 桐ヶ谷団地新築号棟(撮影年月:2017年7月 撮影者:朴承賢)

「ばらばら」「ごちゃごちゃ」「でたらめ」自治会分裂の実情

では、その中である号棟の33世帯の移転を例として、いかに住民が分散されるのかを詳細に見てみよう。この33世帯は、4号棟へ1世帯、6号棟へ3世帯、7号棟へ7世帯、1号棟へ8世帯、2号棟へ7世帯、3号棟へ7世帯が移転した。住民たちは、このような移転方式で近隣が「ばらばら」「ごちゃごちゃ」「でたらめ」になったと表現する。

 

移転はたいていブロック化された区域内で行われるため、ある程度自治会のまとまりが維持されるが、かなり離れている号棟へ移転する場合も少なくない。

 

それゆえ、住民たちからは、「私はEから来たが、周りはWで、挨拶だけ」「今の号棟の空いている6軒は抽選漏れの人が来るのを待っている」「好きなお部屋を選ぶので隣り近所はめちゃくちゃ」「他所には行きたくないということはあるけど、同じ棟に入れないのは仕方ない」といった言葉も耳にした。移転が完了してからは、空いた建物の取り壊し工事が行われた。

 

住民たちは、建替えにより都営団地間の「住民交換」のような移転が行われているとも語っていた。東京都東部住宅事務所の桐ヶ丘団地建替えの担当者は、小さい団地の住民は、桐ヶ丘団地のような大きな団地に移転したりもするので、自治会の分裂はやむをえないと語った。

 

そこで、建替え第2期のK自治会の住民たちに対する3回の集団インタビュー(2012年11月の2回と2013年11月の1回)などを通じて、建替えが同時に行われている北区の都営団地における移転の仕方を見てみる。