都営住宅、「桐ヶ丘団地」。建替えにより、住民たちは移転を余儀なくされてきました。移転による地域コミュニティの崩壊と孤立が及ぼす、高齢者へのさまざまな悪影響について、文化人類学博士の朴承賢氏が解説します。※本連載は、書籍『老いゆく団地』(森話社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「ほんとに怖かった」都営団地の建替え…高齢者が直面した死活問題 桐ヶ谷団地新築号棟(撮影年月:2017年7月 撮影者:朴承賢)

住民がばらばらに分散されていく「都営団地の建替え」

2010年6月には都の都市整備局からAブロック(仮称)の8つの号棟の移転対象世帯に、移転説明会のお知らせが配られた。そして翌月に説明会が行われた。移転説明会から移転の完了までの手順は図表1の通りである。

 

[図表1]建替えによる移転手続きの一例(自治会役員提供)

 

最初の部屋割りの資料となる居住者調査票には、基準日現在の家族全員を記入すること、「同居許可」のない入居は認められないことが明示されている。移転について、「桐ヶ丘アパートへ移転」をする予定か、それとも「自力で都営住宅以外へ移転」するか、また、生活保護を受けているか、もしくは使用料(家賃)免除を受けているかを記入するようになっていた。

 

移転が決定し、部屋割りの手続きが終わると、住民たちの関心は部屋決め抽選に集まる。その抽選の方法を見てみる。まず、住民たちが抽選会で入居を希望する部屋を記入して提出する。そして、希望者が重なると抽選が行われる。外れた住民が再び希望する部屋番号を提出して再抽選する過程を繰り返して、部屋が決まる。

 

住民は、「後回しにされると自分の希望通りには入れないので、早く手を上げて選んだほうがいい」「いやでも結局は引っ越しする。壊すから残れない」と言う。自分は一番上の階を選んですぐ希望通りに抽選されたというある住民は、「西向きの部屋はまだかなり空いている」と語った。

 

移転完了の期限は使用許可日から2週間後となる。2012年3月末に、ある自治会長の自宅でインタビューをして、移転についての資料をもらったが、彼の家も引っ越したばかりの状態であった。

 

建替え予定地区の住民たちは、建替えが10年後になるか20年後になるかわからないと話したりするが、移転対象となってからは、移転説明会から移転完了まで迅速に進められることがわかる。移転により各号棟の住民がいかに分散されていくのかは、この資料から見てとれる。

 

図表2と図表3から見られるように、建替えによる移転手続きによって、あるブロックの8つの号棟に住む231世帯(1人世帯が103世帯、2人世帯が86世帯、3人以上世帯が42世帯)が、それぞれの家族人数に応じて、1~7号棟の290戸へ抽選によって移転したのである。

 

[図表2]移転対象者の内訳(2010年7月12日現在、世帯員構成別)

 

1~3号棟は新築したばかりの、これから移転や管理が開始される地区である。4~7号棟はすでに他区域からの移転が行われており、移転対象者はまだ残っている空き部屋に引っ越すことになる(自治会役員提供。号棟の名は任意の番号)
[図表3]図表1・図表2の移転対象者の移転先住宅概要(型別・棟別)。 1~3号棟は新築したばかりの、これから移転や管理が開始される地区である。4~7号棟はすでに他区域からの移転が行われており、移転対象者はまだ残っている空き部屋に引っ越すことになる(自治会役員提供。号棟の名は任意の番号)