都営住宅、「桐ヶ丘団地」。建替えにより、コミュニティの崩壊、生活空間の変化…など、住民たちの生活はガラリと変えられてきました。ここでは住民へのインタビューとともに、「公用空間」と「庭」の実態を、文化人類学博士の朴承賢氏が解説していきます。※本連載は、書籍『老いゆく団地』(森話社)より一部を抜粋・再編集したものです。
禁じられていたが…都営団地の建替えで「庭」を失う高齢住民の悲哀 (桐ヶ丘団地N地区の公用空間の「庭」。腰を掛ける人のため、日よけをかけている 撮影年月:2010年6月 撮影者:朴承賢)

マンションには公用のスペースが増加。一方、団地は…

篠原聡子[2015:46-55]は、分譲マンションの公用空間の変遷を調査し、集合エントランス部分にオートロックが設置される前後で、配棟計画、および公用空間の設えが変化させられたことに着目する。

 

1980年代前半まで、公用空間は主に管理人室前やエレベーター前に小さな「たまり空間」が見られる程度であったが、2000年以後からガーデンラウンジ、ヴィスタラウンジ、ギャラリーラウンジ、さらにはライブラリーやカフェなどが登場する。

 

また、2000年代は300戸以上の大規模物件の供給とともに、公用部の多様化が進み、ゲストルーム、ジム、ミニコンビニ、保育所、または足洗い場やグルーミングルームなど、マンション内で完結する利便性の追求が進む。

 

これによって、屋内外の連帯が図られ、屋内外を問わず敷地内に居場所を集約させることで、1つのマンションが1つのコミュニティとして意識されるようになってきたのだ。

 

一方、桐ヶ丘団地における公用空間のありようは、それが民間マンションの建て方と対照的であることによってさらに目立っている。

 

建替えにおける桐ヶ丘団地の公用空間に関する建築的配慮は、篠原が観察した「公用空間は利用目的の明確な集会所のみであった」という1980年代のマンションの水準にとどまっているように見える。

 

各自治会が使える集会所が存在し、ここで自治会の会議が開かれたりするが、この空間は日常的に自由に腰を掛けられるような場所ではない。集会所は、事前に利用を申請したり利用料を払ったりするため、自治会が中心となった活動以外にはあまり使われていないのだ。

 

その中で、かつての桐ヶ丘団地において公用の空間として目立つところがあった。それは、住民たちが育てる「庭」である。

 

公営団地では、個人が空き地に何かを植えることは公式には禁止されている。しかし、建替えがまだ行われていない古い号棟の間にある空き地には、住民が個人的に草花や木を育てる「庭」がいたるところに存在する。

 

くつろぐためのいすを出してあるところもある。建替えの最中である桐ヶ丘団地内において、建替え前のN地区と、新築号棟前の空き地の様子は非常に対照的である。