都営住宅、「桐ヶ丘団地」。建替えにより、住民たちは移転を余儀なくされてきました。移転による地域コミュニティの崩壊と孤立が及ぼす、高齢者へのさまざまな悪影響について、文化人類学博士の朴承賢氏が解説します。※本連載は、書籍『老いゆく団地』(森話社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「ほんとに怖かった」都営団地の建替え…高齢者が直面した死活問題 桐ヶ谷団地新築号棟(撮影年月:2017年7月 撮影者:朴承賢)

「環境が変わって、具合悪くなって入院した」住民たちの証言

建替え第2期に該当する世帯の入るK自治会は、本来は4棟190世帯のK自治会であったが、建替えで、2012年11月現在、おおむね5つの棟に分散して入ることになった。8人のK自治会の住民と最初に出会った2012年は、K自治会が建替えで新しくなってから5年ほど経過した時点であった。本来190世帯であったK自治会が、349世帯に増えたことからわかるように、建替えでK自治会の住民構成はかなり変わった。

 

本来の住民だけではなく、同じ北区の王子や十条、浮間(JR北赤羽駅付近)の都営団地の建替えで、そこの住民たちが新しく入って来ているのだ。内海さんは浮間の都営住宅に43年間住んだが、建替えで2011年に新築の桐ヶ丘団地へ移ってきたと語った。

 

新築号棟(撮影年月:2017年7月 撮影者:朴承賢)

 

安田さんは桐ヶ丘団地の2DKに夫婦と子供で40年間居住してきたが、死別と子供の結婚で1人になったので、今度は1DKに住んでいると語った。2012年11月のインタビュー当時、K自治会区域で100軒ほどがまだ空いており、建替え予定のN地域から40世帯が来るのを待っていた。このように、「K自治会」という建替え以前からの名称はそのまま残っているが、移転によりその構成員はがらりと変わったことがわかる。

 

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自分で希望すれば、桐ヶ丘団地の古い住宅で3年間住むことにして、浮間の建替えを待って、3年たてば戻れる。それは自分で決められる。しかし、主人が80歳近いので、建替えてからは80歳をすぎちゃうんじゃないですか。そうしたら、たとえば1人になった場合、私が1DKに入るようになっちゃう。そうすると、主人はいない、お部屋の形は変わる、隣り近所も変わるというようになると、うんと寂しい人生になるんじゃないですか。だから、まず桐ヶ丘団地に引っ越して、最後まで住むのがいいんじゃないかなと思って、決心して(桐ヶ丘団地の)新築のところへ移りました。 (2012年11月、K自治会住民との集団インタビュー)

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2年たって今は慣れた。しかし、最初は不安だった。私は浮間から来たので、最初の半年は環境が変わって、具合悪くなって入院した。精神的にまいる。浮間に戻らないようになったので、古い人の話を聞いて、馴染まないといけないという気持ち。それが一番。決心したの。借りているほうだから、決心するしかない。都営という条件がついているから。嫌がらせになるから結局は引っ越しするんだ。壊すから残れない。選択は自分でするけど建替えを反対しても出て行ってくださいという雰囲気であるから。誰も知らないところに行ってくださいということは高齢者に辛い。(2012年11月、K自治会住民との集団インタビュー)

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2012年の当時、K自治会には浮間の都営住宅から30世帯が、たいていはもう戻らないという条件で桐ヶ丘団地へ来ていた。こうした住民は、建替えが終わってから戻ろうとしたら、桐ヶ丘団地の古い住宅に入って、何年か待ってまた元住んでいた団地へ引っ越しするしかないので、高齢者には無理だと話した。さらに、待つ期間が予想より長くなる恐れもあり、新しい団地の新築の部屋に馴染もうとするのであった。

 

K自治会ブロックでは、2015年現在もまだ50部屋空いており、近くの都営団地や桐ヶ丘団地のN地区からの住民が来るのを待っていた。もちろん、桐ヶ丘団地の住民たちも建替え第1期には浮間の新築住宅へ200世帯ほどが移った。住民たちの言う通り、最初は条件がよかったので、建替え第1期には「後で戻っても戻らなくてもいいから、とりあえず浮間へ移ってください」という雰囲気であったという。

 

そして、浮間の都営団地が北赤羽駅のすぐ近くに位置しており交通が便利であるとか、引っ越しが大変などの理由で、100世帯くらいはそのまま浮間の団地に残った。当時、神谷や東十条の都営団地へ移転した住民もいたという。このように、建替えで北区の都営住宅の住民はまるで「住民交換」のように移動した。

 

「ばらばらになる」移転は、住民たちの社会的な孤立へとつながった。住む場所を移すということは、日常的に自分のアイデンティティを証明してくれる古い隣人の存在がいっぺんに消えてしまうことを意味する。