都営住宅、「桐ヶ丘団地」。建替えに対し否定的な住民と、都の対応から、日本社会の「自己責任」の意識が浮き彫りになります。ここでは住民へのインタビューとともに、その実態を、文化人類学博士の朴承賢氏が解説していきます。※本連載は、書籍『老いゆく団地』(森話社)より一部を抜粋・再編集したものです。
税金でお世話に…「運よく都営団地に当たった」高齢者と建替えの悲惨 (ふれあい館の活動。午後の将棋会 撮影年月:2010年6月 撮影者:朴承賢)

「建替えが終わる頃にはこの世にいない」

筆者が桐ヶ丘団地で最初に出会った住民たちは、まだ建替えが行われていないN地区の住民たちであったため、彼(女)らとは今後の建替えについて話し合うことになった。

 

住民たちは、「このままがいい」「引っ越しは大変」「改善事業がもったいない」「隣り近所がばらばらになるのはいやだ」と、皆建替えに対して反対であった。また、建替え後、認知症が悪化したり、外出の際に迷ってしまって閉じこもりがちになったり、引っ越しで具合が悪くなったりする人がいるといった否定的な話ばかりだった。

 

年金生活をしているので、最終的に家賃が2倍程度に上がり経済的負担が大きいという不安もあった。何よりも、一人暮らしの人が1DKに入ることへの不満が大きかった。建替えに対する高齢住民の意見に耳を傾けてみよう。

 

※ 移転先住宅の使用料は、部屋面積や入居者の収入などにより決定される。ただし、移転先の住宅使用料が現在より高くなる場合、1年目には新使用料と旧使用料の差額の6分の5を減額、2年目は差額の6分の4を減額する仕組みで、6年目になって新使用料となる。

 

2010年7月には、今後の第4期から第6期までの建替え後期工事に関する説明会が行われた。第1期から第3期までの前期工事の説明会から14年も経過していた。

 

建替え計画に関する説明が終わると、住民からの質問時間があった。質問に際しては、この説明会が録音されていることが告げられ、質問をする時は、何号棟の何号室に住んでいるのかを言ってから質問内容を話すことになっていた。

 

区域ごとに集まって説明会が数回行われたが、間取りや家賃に対する質問、家が小さくなるのに家賃が上がることへの不満は、どの説明会でも共通であった。計画担当者は「東京都の方針としては」「基本的に税金でやっているから」などの言葉で答えたりした。

 

建替え予定地区の説明会が終わってからの帰り道に、住民たちは「図を指しながら約5年後、10年後にこのブロックが向こうのブロックへ移るという説明だから、聞いても全然わからない」「あと5年後、10年後だから無理して(説明会に)行かなくてもいい」「設計図は見てもわからない。平方メートルは全然わからない」と説明会への不満を表した。

 

「皆そこまで生きていない」という無関心な反応から、建替え予定地区の住民たちは怒っているように感じられた。

 

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20年前にもう建替え説明会があった。しかし、建替えは進まなくて、逆に8年前に1間増やす増築の工事があって、工事の期間中には仮家で住んでいた。死ぬまで壊さないんだなと思っていたらまた建替えの話。壊す必要までないと思う。皆がもったいないなと思っている。N1号棟は昭和37年に建てられて、私は昭和42年に来た。皆、今さら引っ越しはいやだと言っている。(建増しの時に)仮の住宅にいる間に建替えしたらよかったんじゃない? 知らない人ばかりのところに行きたくない。隣りどうしで一緒に行きたい。皆で反対しようというのよ。(2010年8月、橋元さんへのインタビュー)

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高齢の住民たちは、引っ越しについても心配する。説明会で、ある住民は「うちのお母さん、全然動けない状態です。引っ越しどうします? 団地では非常に多いと思う」と抗議した。「この年で引っ越しはしたくない」という住民の反応は切実なものであった。

 

「家賃が高くなるし、収入は相当少ないし。病気になると赤字よ」という反応から、建替えによる変化への不安が感じられた。