都営住宅、「桐ヶ丘団地」。建替えにともなう引っ越しでコミュニティは崩壊し、高齢住民たちの生活はガラリと変えられてきました。隣近所の顔がわからなくなった住民たちにとって、「孤独死」という問題は非常に大きなものとなっています。同団地住民を長く取材してきた、文化人類学博士の朴承賢氏が解説します。※本連載は、書籍『老いゆく団地』(森話社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「エレベーターで挨拶もしない」団地の住民たちに何が起きたのか? (※写真はイメージです/PIXTA)

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80代独居女性「旅行が趣味」だが…代理店の対応は

桐ヶ丘デイホーム(団地内に位置する高齢者介護予防施設)の浅田さんは、他の人たちが集まってゲームなどをする自由時間に一人でいすに座って何かを読んでいた。頼りになる家族が不在の中で胃癌の手術を受けたという彼女は、一見「孤独な一人暮らしの老人」の典型のように思われた。

 

しかし、デイホームという施設から離れると、彼女の生活は、はるかに多様な姿で表現されていた。彼女の趣味は国内の島々を旅行することであった。デイホームで一人で見ていた冊子は、旅行ガイドやパッケージ旅行の案内だったのだ。

 

自分は独唱が嫌いだと言いながら、以前から合唱会に定期的に参加してきたと述べた。池袋のサンシャインシティで行われる合唱会の忘年会を楽しみにする様子が印象的であった。

 

2013年秋に、浅田さんは旅行会社から80歳を過ぎてからは保護者の同伴なしには困ると言われて旅行を断念し、非常に失望したと漏らした。ちょうど筆者にも、歩くのが遅く、食事にも注意するべきものが多くて迷惑をかけるので、島々の旅行を続けられるかわからないと言っていたところであった。

 

筆者と一緒に巣鴨の縁日に買い物に行ったある日、浅田さんは、いつか自分が再入院することに備えて、パジャマを2着買った。

 

2015年の夏に、2年ぶりの再会のために電話をすると、浅田さんは「痩せすぎて、私を見ると朴さん驚くよ」と話した。癌がリンパに転移し、手術をうけたのだ。彼女は、「朴さんはこんなに背が高かったのか。ああ、そうじゃなくて、私が小さくなったのよね」と楽しそうに冗談を言った。

 

彼女は、手術後健康が悪くなることを考え、介護申請をしてから入院した。そして、退院してから要支援の対象となり、送迎バスに乗ってデイサービスの施設に通うことになった。

 

彼女は、もう10年以上のコミュニティであるデイホームに行かれなくなったことを残念に思っていた。

 

2017年にまた2年ぶりに浅田さんに再会した。彼女は今回も「朴さんはこんなに背が高かったのか。ああ、そうじゃなくて、私が小さくなったのよね」と同じ冗談を言った。

 

杖に頼って歩くようになったが、リンパの癌は落ち着いたと話した。布団を干すのが無理になって、月一回は乾燥サービスを受けるようになり、「生活を維持するために費用がかかる」と言った。