都営住宅、「桐ヶ丘団地」。相次ぐ建替えにより、地域コミュニティは度重なる苦難に見舞われました。高度経済成長期の遺産である「大規模団地」の高齢化と建替えについて、文化人類学者の朴承賢氏が解説します。 ※本連載は、書籍『老いゆく団地』(森話社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「この年で引っ越したくないよ」相次ぐ建替えで住民困窮…都営団地の実態 建替え予定地区の改善事業後の様子(撮影年月:2012年11月 撮影者:朴承賢〔パク・スンヒョン〕)

都営住宅「桐ヶ丘団地」の建替え、2020年には終わっていたはずだが…

2010年の建替え説明会の当時、東京都都市整備局の計画担当者へのインタビューでは、「人口減少の時代であり、建物を新しく増やすことはないので、東京都は現在建替えしかやっていない」と語った。

 

東京都の住宅全体の中で、都営住宅の戸数は5%程度である。担当者は、現在も抽選倍率は高いが、需要があるにしても、老朽化で応募がないところもあるため、古くなった建物を建替えて、今の5%の枠の中で使える住宅をしっかり作るのが現在の傾向であると述べた。

 

それは『国土交通白書』の2001年度版で「ストック重視、市場重視」が、さらに2002年度版では「ストック重視、住居環境の整備、住宅市場の環境整備の推進」が強調されたことと同じ文脈での説明であろう。

 

桐ヶ丘団地は、現在建替え中の都営住宅の中で最も規模の大きい団地である。建替えが始まった1996年の段階における建替えや改善工事の計画は、図表のように、第1期から第3期までの前期建替え工事、第4期から第6期までの後期建替え工事が行われ、2020年に完了する計画になっていた。

 

1996年、建替えがスタートした時期の計画[東京都都市整備局2015a]。 建替え第3期対象住宅に対する簡易改善工事を含め、第4期から第6期までの建替え対象地区に対して、増築工事を含む改善工事が建替え第1期~第2期の期間に行われる
[図表] 1996年、建替えがスタートした時期の計画[東京都都市整備局2015a]。
建替え第3期対象住宅に対する簡易改善工事を含め、第4期から第6期までの建替え対象地区に対して、増築工事を含む改善工事が建替え第1期~第2期の期間に行われる

 

※ 桐ヶ丘団地再生計画の目標を見ると、(1)居住水準の向上と土地の高度利用、(2)周辺市街地に開かれた地域の中心の整備、(3)現居住者への充分な対応、(4)高齢化社会への対応、(5)居住者構成の多様化、(6)良好な自然環境の保全と活用、(7)生活関係施設の充実、(8)街並形成となっている。建替えの計画は、東京都都市整備局住宅整備課が、建築は同東部住宅建設事務所が担当している。

 

一方、全面的な建替え工事が後回しとなる第3期建替え分以後の住宅に対しては、その建物の状況に応じて改善事業を行うことが計画された。改善事業は、1期を一年半として全体で5期、約8年以内に完了することが目指された。

 

2015年現在、建替えは当初の予定よりかなり遅れているが、改善事業はほぼ予定通りに完了している。2015年8月、東京都都市整備局の東部住宅事務所建替え担当者へのインタビューから、2015年現在の建替え工事の状況を見てみる。

 

最初の計画では、2015年は第5期に入る段階であるが、工事が予定より遅れて、第4期の建替えが行われると同時に、第6期の計画を考えている最中であった。

 

第4期の建替えが終わると、第5期の区域に居住する住民が基本的に第4期の地域に移転する。そして、第5期の建替えが終わると、2020年までに第6期の住民を第5期の区域に移動させる計画であった。