固定残業代導入の際にリスクを回避するためのポイント
Q 固定残業代を導入したいです。導入にあたって気を付けたほうがいいポイントはありますか?
A 固定残業代の支給が、残業代の支払いとして認められるために、次の「11個のポイント」に注意しましょう。
ポイント1.基本給に含むタイプの固定残業代は不可
前述した明確区分性の要件により、固定残業代の金額は、それ以外の賃金項目とわける必要があります。
ポイント2.36協定を正しく締結する
36協定※が締結されていない場合、企業は従業員に残業を命じることができないため、「対価性の要件」が否定されるおそれがあります。
※労働基準法36条に基づく労使協定のこと。残業を命じる場合に必要となります。
従業員に時間外労働を命じる際には、36協定が必要になります。固定残業代とは関係なしに締結しておく必要がありますので、36協定は締結しておきましょう。
ポイント3.時間数は45時間程度を上限とする
一般企業における通常の時間外労働は、「月45時間まで」ということが労働基準法に定められています。
固定残業代の対象時間数を60時間・70時間などと設定するのは、固定残業代による残業代の支払いが裁判で認められない原因となりえますので、固定残業代は、45時間程度を上限としておくのが好ましいでしょう。
ポイント4.従業員の平均残業時間を把握する
固定残業代の対象時間数は、実際の時間外労働の状況と大きく乖離させないことが必要です。
たとえば、実際にはごくわずかしか残業がない企業で45時間の固定残業代をつけているということであれば、それは本当に固定残業代なのか、という疑義が生じてしまいます。
したがって、できるだけ実際の労働時間との乖離が大きくならないように設定するのが好ましいです。
ポイント5.基本給が最低賃金を下回らないように注意する
基本給や諸手当を減額して固定残業代に振り替える場合、基本給が、最低賃金を下回らないようにする必要があります。
ポイント6.労働時間を把握し、超過分を別途支給する
固定残業代の支給が、残業代の支払いとして確実に認められるためには、正確に労働時間を把握し、超過分の残業代を支払う必要があります。
超過分を支払わない固定残業代は「対価性の要件」を欠いているとして、残業代の支払いと認めない裁判例も存在します。
固定残業代を導入すると、労働時間の把握がルーズになる企業が多いです。固定残業代を導入する際は、正確に労働時間を把握し、超過分の残業代は必ず払うようにしましょう。
ポイント7.対象時間数も明示する
固定残業代に関して、金額だけではなく、それに対応する時間数も明示しましょう。
時間数の明示の要否については裁判例がわかれます。どの裁判例でも求められている、というわけではありません。明示していなくとも残業代の支払いが認められたケースもありますが、リスク回避のため、明示しておくことが好ましいでしょう。
ポイント8.休日出勤手当や深夜手当は別に支払うようにする
時間数を明示するために、通常の時間外労働代の分だけを固定残業代手当として払うことにして、休日労働や深夜労働については別に払う制度を採りましょう。
ポイント9.就業規則作成についての注意点
ここまでのポイント1~ポイント8で定めたことを就業規則に反映しましょう。
たとえば、固定残業代が、割増賃金の支払いの趣旨で支給されるものであることや固定残業代を上回る割増賃金が発生したときは超過分を支払うことを、就業規則明確に規定しましょう。
ポイント10.給与明細での表記方法
給与明細にも固定残業代の金額を表示しましょう。
就業規則に固定残業代の名称が記載されているはずですので、それと同じ名称で給与明細でも表示するようにしてください。
ポイント11.求人広告での表記について
固定残業代の計算方法をもとに、どのようにしてその金額が導かれたのかを明確にしましょう。
職業安定法という法律で、求人の際に固定残業代の有無の明示が義務付けられています。求人する場合は固定残業代の金額、対象となっている残業時間数、そして、固定残業代の計算方法をもとにどのようにしてその金額が導かれたのかを明確にしましょう。
固定残業代を除外した基本給部分の金額や、固定残業代を超過する残業があった場合は残業代を支払うことを求人広告で表記することも義務付けられています。
もちろんこれは、固定残業代がある企業の話であり、固定残業代がない企業の場合はこのような表記は必要ありませんが、固定残業代があるのならば、このようなことを必ず書かなければなりません。
■動画でわかる固定残業代制度の注意点
西川 暢春
弁護士法人 咲くやこの花法律事務所
代表弁護士
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