壮絶なダイエットの果てに…
ひと月後。
「私、本気で痩せたいんです。ダイエットのメニュー組んでください」
洋子は、そう管理栄養士に頼み込んでいた。しかし、その答えは当たり前ではあったが洋子にとって無情なものだった。
「あのね、遠藤さん。ダイエットに王道はないのです。地道に痩せる努力をして、健康的になりましょう」
そういって示した一日の総カロリーは1700キロカロリーだった。
「1700キロカロリーって、結構多めじゃないですか?」
「いえ、遠藤さんの身長と現在の体重から割り出すと、これくらい摂らないとかえってまずいことになります。それに、よく見ればわかると思いますが、お菓子やジュースなどの嗜好品はこの中に入っていません」
「ということは……?」
「はい、甘い飲み物やお菓子などは基本的になしとお考えください」
これが、自分をとことん甘やかしてきた洋子には地味につらいものだった。お菓子はまだ我慢ができても、炭酸飲料やアイソトニック飲料、乳酸飲料が飲めない生活は洋子にとってストレスでしかなかったのだ。
「だけど、俺にあたらないでくれ。もとはといえば、洋子がここまで太ったのが悪い」
夕食の時、智宏がそう洋子に釘を刺した。なにかにつけてキーキー言うようになった洋子に、智宏は本格的に愛想をつかしはじめていたのだ。
(これは本当にまずいかも……)
洋子は、ダイエットのストレスを智宏にぶつけるのはやめた。
その代わり、智宏にお願いして使わなくなったマットレスを紐でぐるぐる巻きにしてもらった。
「よし、これでサンドバッグ代わりになるかしら」
試しに、洋子はサンドバッグもどきに蹴りを入れる。
「よし、いい感じ。これならストレス解消になるかも」
それからというもの、洋子はストレスが溜まるとサンドバッグもどきを蹴り込んだ。それは思わぬ副産物を生んだ。
両足それぞれ交互に蹴り込んでいたため筋肉量が上がり、また回し蹴りもどきもしていたからか、それぞれの股関節の可動域も上がったのである。
こうなると、ダイエットが面白くなってくる。洋子は時間のあるときは一日15000歩歩くようになり、スクワットやプランクといった筋トレにも果敢に挑戦するようになった。また、雨の日でもだらだらすることが減り、1年後にはマイナス15キロに到達していた。
「おめでとうございます! すごく頑張りましたね」
そういって管理栄養士がほめてくれて、洋子はとてもうれしかった。とはいえ、まだまだ同世代の平均体重には遠く及ばなかった。
(私、頑張ってお姫様抱っこしてもらうんだから!)
洋子は、そう決意を新たにした。
そして、5年の月日が流れ……。
ようやく、洋子は智宏にお姫様抱っこしてもらえる体重と体型になったのだ。
(やった! これで念願が叶うのね♪)
洋子は浮かれていて、肝心なことに気がついていなかったのだ。
「ただいまー。ねえ、私、産前の体重にようやく戻ったの。だから、お願い。お姫様抱っこ、して」
だが、智宏の答えはつれなかった。
「無理。俺の年を考えて。もう50を過ぎたから、体力的にも腰痛的にもダメだよ」
そう、智宏は、腰痛症だったのだ。せめてあと3年早くダイエットに成功したなら、望みが叶ったかもしれないのに……。