どう考えても「損」なのに長男は驚きの行動を…
基本的に、このご家族のように公正証書遺言がある場合、遺言の真正性や遺言の効力に疑義が生じることはありません。もし疑義が生じるとしたら、被相続人が認知症など、意思能力がない状態に陥ってしまうといったケースに限ります。
中には、被相続人に意思能力があるのかどうかをよく確認せずに公正証書遺言を作成してしまったのでは?と疑問に思ってしまうケースも過去にありましたが……。
しかし今回の事例では、遺言を書いたお母さまの意思能力はしっかりしているので、そこに問題はありませんでした。ところが、長男の一樹さんはこの遺言を不服として弁護士を立て、改めて遺産分割協議をやり直すべきと主張したのです。
このような場合、通常は弁護士が「有効な遺言があるにもかかわらず、遺産分割の協議をするんですか? こんなことで争ってもお金と時間がかかるだけで、あなたにとっても意味がないですよ」とアドバイスするはずです。誰が見てもあまりに理不尽な言いがかりですからね。
これはあくまでも私の推測に過ぎませんが……この弁護士さんは、一樹さんには勝ち目のない裁判と知りつつ、着手金欲しさに依頼を受けてしまったのかもしれません。世の中にはそのような弁護士もいるという話を耳にしたことがあります。
このケースでは一樹さんが弁護士を立ててきたため、淳次さんも弁護士に依頼するしかありませんでした。そして現在も弁護士を介して話し合いを続けていますが、いまだ結論は出ていません。彼らの「遺産分割調停」は継続中なのです。さすがに民事訴訟には至っていないものの、すでに弁護士費用などでかなりのお金がかかっており、兄弟そろって相当疲弊していることでしょう。
日本では生前に遺言を書く人は、いまだに1割前後しかいません。その意味では、今回登場されたお母さまは、レアなケースと言えます。生前にきちんと公正証書遺言を準備し、しっかり終活をされていました。それにもかかわらず「争族」が起きてしまいました。