本記事は全国に31店舗を展開する美容室【CIEL】の創設者で、OXY株式会社代表取締役である山下拓馬氏の書籍『よそ者経営』より、一部抜粋・編集し、株の知識ゼロで入社した新人証券マンの苦悩を見ていきます。

「証券会社のディーラー」の優位性が揺らぎだして…

ディーリング部には優秀なディーラーが何人もいて、個人で1億以上資産を貯めている人もいる(歩合制で、大きく利益を出した場合は何割かボーナスに反映される仕組みになっていた)。

 

あまりに損を出してばかりだとさすがに他の部署に異動になるが、取引をするうちに値動きのパターンが読めるようになってきた。僕は自分なりにルールを見つけて少しずつ利益を出せるようになった。僕のように株のことを何も知らない人間でも何とかやっていけたのには、理由があった。

 

当時は機関投資家(組織に所属しているディーラー)は、個人投資家に比べて有利に取引ができる仕組みがあったのだ。当時のディーラーのデスクには通常の取引用画面とは別に、東証端末―東京証券取引所の株の値動きを瞬時に表示する、専用回線に接続されたパソコン―が設置されていた。

 

これは個人の投資家が見ることのできる画面より、1秒ほど早く株価の動きを表示してくれる。株価は同じ業種であれば連動することが多い。

 

たとえば大手不動産なら、三菱地所、三井不動産、住友不動産が代表格だが、このうち、何かの理由で三井不動産が上がり始めるとすると、他の2社もそれにつられて上がりだす。

 

このとき東証端末は、個人投資家のパソコン画面より1秒ほど早く株価が更新されるので、住友不動産、三菱地所が上がり始める前に瞬時に買いを仕掛けることができるのだ。いかに早く傾向を掴んで反射神経で勝負するか、が重要だった。

 

それに当時は個人投資家用のネット証券の取引ツールは使いにくいものだったので、個人投資家は瞬間の取引がしづらく、僕たちのような証券会社のディーラーが取引には有利な立場を維持できていたのだ。

 

しかし2010年1月、東証に高速の株式売買システム「アローヘッド」が導入された。このシステムにより機関投資家も個人も株式売買の成立スピードに差がなくなり、東証端末は必要なくなった。

 

証券会社のディーラーの優位性が揺らぎだし、そのような金融業界の変化を反映してなのだろうか、寝耳に水の一大事が発生した。2010年4月、僕が勤めるI証券がK証券と合併、K証券を完全子会社化したのだ。

かなりの数の社員が会社の存続のため整理されることに

会社の合併話はトップシークレット。多くの場合、自社の合併を社員が知るのはマスコミ発表当日だ。会社員にとって合併は人生の一大事。合併の目的は効率化なので、かなりの数の社員が会社の存続のため整理されることになる。

 

アローヘッドの導入などで、機関投資家の立場が揺らいでいた折、ディーリング部が10人ほどに縮小されるという噂が伝わってきた。取引で大した成績を残していない僕などは一番にはじき出されるだろう。

 

とはいっても、僕も入社して約2年。一部上場企業の社員であるということのメリット、社会的な信用、経済的安定性―を実感するようになっていた。ディーリング部から追い出されても、それを捨てる勇気はない。

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『よそ者経営』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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